大城牧師の話 黒魔術に関する話 その四(沖縄県) | コワイハナシ47

大城牧師の話 黒魔術に関する話 その四(沖縄県)

黒魔術に関する話 その四

大城牧師は五十代後半の南部生まれである。牧師になる前は進学塾の講師をしていたこともあるという。

牧師になったきっかけは、ハワイに移住している祖母の影響が大きかった。ハワイに移住した祖母は、そこでキリスト教の洗礼を受け、クリスチャンとなった。両親の離婚がきっかけで、二歳から十五歳までハワイで過ごした大城牧師は、最初はキリスト教の教えにはあまり興味がなかった。

ところが、大城牧師は沖縄に帰って来てから、いわゆる「神ダーリ」の状態を経験する。いろいろな異質な声を聞いたり、キリストの磔のイメージに悩まされたり、天使を見たりした。

あるとき、夢の中に、二人の神様が現れて、大城牧師にこう告げた。

「あなたは前世では権現の神様に仕えたが、そのまた前世ではキリストの神に仕えた。今生ではどうするか、自分で決めなさい」

大城牧師はそのような夢を何度も見た。一時期はユタの修行をすることも考えたのだが、ハワイにいる祖母に相談すると、「あなたはキリスト者なんだから、そちらにしなさい」といわれて、牧師になる決心をした。

そんな大城牧師の下を、えりこさんたちが訪れたのは、蝉のなく蒸し暑い夏のことだった。

「すみません。知人の山城の紹介できたのですが、大城牧師さんですか?」えりこさんのお母さんがいった。

「はい、そうですが」

「実は娘のことで相談がありまして」

「まあ、暑いのでお入りください。事務所はクーラーがかかっていて涼しいですよ」

大城牧師の教会は普通の民家を改造しただけの質素な作りである。大城牧師は母親に連れられて入ってきたえりこさんを見て、思わずイメージをしてしまったものがあった。

それは、狼のような獣だった。

獣が、そばにいる。

そんな感覚を持ったという。

大城牧師は二人を事務所に通して、奥さんが冷たい麦茶を入れた。

「それで、どういったご用件でしょうか? 山城さんというのは、うちの信者の山城さんですか?」

「はいそうです。私は山城ちかえの同級生なんです」母親が答えた。

「そうですか、山城さんはとてもよい信仰の持ち主です。ええと、お名前は」

「池間です」

「池間さん、それと娘さんですね」牧師がうながすと、えりこさんはうなずいた。

大城牧師は何か、いいかけたという。

やはり、獣の匂いがする。

野良犬のような、狼のような、そんなイメージが頭の中を駆け巡った。

「娘さん、どうかされましたか? 失礼ですが、ご病気ですか?」そんなことを聞いてしまった。

「わからないんです。牧師さん、助けてください。山城から、あなたは霊感もあるから、なんとかしてくれるだろうといわれたんです」そういってB子さんの母親は、教会の事務所の中で泣き崩れてしまった。

母親はそこで大城牧師に今までの経緯を説明した。娘がジョナサンという名前の軍人と結婚したこと。結婚当時はうまくいっていたこと。ジョナサンが黒魔術のようなものにはまってしまい、だんだんとおかしくなっていったこと。ほら貝を腐らせて、何かの儀式をしていること。日ごとにうなされること。ほとんどのユタに断られたこと、などをかいつまんで話した。

「なるほど。娘さんの状態はわかったのですが、私にできることがありますか? たとえばそのジョナサンという男性と話をするとか」

「話をしても無駄だと思います。そのかわり、娘にとり憑いた悪霊を追い出してほしいんです」

「ううん。それは」大城牧師は言葉に詰まってしまった。自分は確かにキリストを信じているし、牧師としての力は神からやってきているのを確かに知っている。だが悪霊を追い出すということは、そう簡単に返事をしていいものだとは、とうてい思えない。

「池間さん、正直にいいますが、私はそういった儀式をしたことがありません。他の教会でなら、そういう儀式を毎日しているところを知っています」ただし、評判はあまりよくはありませんが、と心の中で付け加えた。

「では、どうしたらいいのでしょう。その教会を紹介してくださるんですか?」

「ええと、そうですね、それはやめておいたほうがいいかもしれません」そういって大城牧師はえりこさんに向き直った。

やはり獣のイメージがする。大城牧師は内心に恐怖が少し生まれるのを感じた。

それにやはり、野良犬の匂いもする。

「えりこさん、何か犬を飼っていらっしゃいますか?」

「いいえ」

「そうですか。わかりました。ほら貝が腐った匂いは、相当なものなんでしょうね」

「はい、ハイターと魚が腐ったみたいな匂いがして」

「わかります。大変なのはよくわかります。では、あなたのためにお祈りをしてもいいですか」

「はい、してください。私もベースの中の教会に一時期行っていたんです。プロテスタントでしたが、少しは信じています」

大城牧師は、正直どうして言いかわからなかったが、心の声に従うことにした。聖書のペテロにイエスがしたように、大城牧師はえりこさんの頭に手を置いて、心から溢れるままの祝福の言葉を述べた。その間も、大城牧師の頭の中には獣のイメージがつきまとっていた。野良犬のような、狼のような、煙のような、黒いような、灰色のような、なにものか。

大城牧師がイエス・キリストの御名によって祝福をしていると、えりこさんが次第にトランス状態のようになっていった。次第にえりこさんは英語で「ファック!」「アイ・ビリーブ・イン・クライスト!」「ホワット・ア・ファッキン・ゴッド!」「ヘルプ・ミー!」など、神をののしったかと思えば、信仰を告白したり、相反する英語の言葉を交互に叫び始めた。

大城牧師は固い信仰の持ち主であったが、目の前でそのようなことを口走る女性に対して、恐れを抱かなかったかといえば、そうではなかった。大城牧師の心の中には、えもいわれぬ恐怖があった。だが、そのときだった。

大城牧師の横に、誰かがスッと立ったのである。

その人物は、大城牧師の肩に優しく手をおいて、信頼と愛のメッセージを送ってきた。

もしかしたら天使かも知れない、と大城牧師は考えたが、どうもキリスト教で一般にいわれている天使とは違う存在のようだった。どう考えても、肩に手を置いているのは、今は亡きハワイの祖母のようだった。感覚や匂いまで、まざまざと思い出されてきた大城牧師は、祖母と一緒になって祈りの言葉を口にしているのに気がついた。

やがて大城牧師は祈りを終わり、手をえりこさんの頭からはずした。それとともに、祖母の感覚も一緒になくなってしまった。

えりこさんは泣いていた。もはや獣のイメージは、大城牧師には感じられなかった。

それから三人は事務所の中で、よく冷えた麦茶を飲みながら、しばらく歓談をした。

「一度、私がそのジョナサンさんとお話をしてみてもよろしいですか。こう見えてもハワイ育ちなんです。一応英語はペラペラですよ」

「そうですか。助かります」母親が言った。

でもえりこさんは気乗りをしていないようだった。話しても無駄だと思い込んでいるらしい。

大城牧師はえりこさんたちの住所を教えてもらい、一週間後にマンションに行くという約束を取り付けた。

だが結局、大城牧師はジョナサンと話すことはなかった。

そのかわりに、別のものが、家族の下にやってきた。

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すべての終わり 黒魔術に関する話 その六

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