黒魔術に関する話 その二 | コワイハナシ47

黒魔術に関する話 その二

それからしばらくすると、ジョナサンは腐ったほら貝を大きなジップロックにつめて、ベースの中へ持ち込んだ。一体何に使うのかは皆目見当もつかなかったが、ジョナサンは真剣だった。

それから毎晩、えりこさんは夜になるとうなされるようになった。

悪い夢を見ることもあったし、実際に黒い影のようなものが首を絞めている夢を見たあと、目が覚めると、部屋の隅を黒い影が立ち去るところを見たこともあった。

昼間、洗濯物を干していても、何か妙な臭気がどこからともなく漂ってくるのを感じたこともあった。何か動物のような臭いだったが、何の臭いかは結局わからなかった。

またある時は、キッチンでお皿を洗っていると、背後に何かぞっとするものが立つ気配を感じた。

振り向くと、冷蔵庫の後ろに見たこともない黒人兵がこちらを睨んで立っているのが見えた。

びっくりしたえりこさんは悲鳴を上げたが、その黒人兵はにやりともせず、無表情のまま、しばらくそこにいたのだという。

それは人間ではなくて、何かポスターのように現実味のない、形だけの存在であった。

しばらくするとそれは空間から切り取られたかのように、パッと消滅した。

その黒人兵は、それから何度もえりこさんの元に現われた。ある時には、睨みつける黒人兵の頬に汗が滴るのさえわかった。だがそれは彫像のように動かず、しばらくすると消えてしまった。

ある時家に帰って来たジョナサンにそのことを話すと、別に驚いた風でもなく、「そういうこともあるだろう。ここは基地の中なんだ。いっぱい人は死んでる」と気にしない風に答えた。

すでにこの時点で、えりこさんの精神状態はおかしくなり始めていた。

ジョナサンが気味の悪い呪文を唱え始めてから、三ヶ月が過ぎたある日のこと。えりこさんは毎日何かにおびえるようになり、あるとき実家の母に相談した。

えりこさんのお母さんは娘のそんな変わりように心を痛め、ある時彼女を呼んでこういった。

「ユタのところに行こうね」

「母さん、私、ユタなんて言ったこともないし、信じてもいないし」

「いいから。母さんのいうことを今回だけは聞いてちょうだい」

どうしても、と母親がいうことを聞かないので、えりこさんはしぶしぶ母親と一緒にユタの元を訪れた。

そのユタは五十過ぎの男性であったが、霊力はかなり強い方らしく、沢山の人がハンジ(ユタの占い)を求めて男性の元を訪れていた。

えりこさんと母親は、まず男性ユタの住んでいる一軒家の居間に通されて、まず母親が娘のことについて説明しようとした。

ところが簡単な自己紹介をしたところ、二分もしないうちにそのユタから「帰りなさい!」と大声で怒鳴られてしまった。

「私はヒージャーミー(注・山羊の眼という意味。主にアメリカ人を指す)の悪霊は手に負えん。他に見てもらいなさい。英語で毒づいているが、意味がわからん」

「駄目ですか? 駄目ってことなんですか? 私はまだ、娘がアメリカと関係あるなんて、一言もいってませんよ」母親がいった。

「そのぐらいはわかる。あんた、私を誰だと思ってるのかね。残念ながら私は英語なんて喋れんし、私の神様も理解できんっていってるさ」

こうしてえりこさんはそのユタから手に負えないということで追い出されてしまった。

別の六十代の女性ユタのもとにもえりこさんは連れて行かれた。だが結果はほとんど同じだった。

「アメリカーの悪魔がついている」そのユタはそう断言した。「これは私の専門外やっさー。申し訳ないが、他を当たってもらわないといけません」

「でも他ってどこなんですか?」母は絶望的な気持ちで聞いた。

「知りません。聞いても答えてくれませんからね」

「それってひどくありませんか。私の娘はウチナンチュで、あなただってウチナンチュの神様に聞いているわけでしょ? 酷いですよ」

「では離婚しなさい。それしか道はない」

離婚しかない。そういわれて、えりこさんの気持ちは揺らいでしまった。

えりこさんは、おかしくなる前のジョナサンの姿を知っていて、できることなら離婚などしたくなかった。離婚するという考えは、えりこさんの頭の中には少しもなかった。

しかしジョナサンは日増しに酷くなってくるようだった。

ある日の夕方、ジョナサンが帰ってくると、例の友達数名と一緒だった。

「ちょっとミーティングがあるから、九時くらいまではずしてくれないか。映画に行くとか、なんでもいい」

そういわれて、えりこさんはしかたなく一人で外出し、ベースの中のショッピングモールや喫茶店などで時間をつぶした。夫が何をしているのか疑問ではあった。だがえりこさんは従順にいいつけを守り、九時過ぎに帰宅した。

すると、ジョナサンたちはもうそこにはおらず、変わりにあったのは嵐が過ぎ去ったかのような、散らかり放題の部屋。

そして部屋の中には、あの嗅いだことのある腐ったほら貝の臭気で満ちていた。スチール製のバケツの中には、燃やされたキリストの絵がそれだとわかるくらいに残っていた。カーペットの上には血痕のようなものもあり、えりこさんはそれを見て半狂乱になってしまった。

えりこさんが母親に電話をすると、彼女はタクシーですぐに迎えに来てくれた。

「もうここにいちゃ駄目」母親はえりこさんにそう告げた。「明日、ある人が来るから、話を聞いてもらうのよ」

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