黒魔術に関する話 その一(沖縄県 北谷) | コワイハナシ47

黒魔術に関する話 その一(沖縄県 北谷)

北谷近辺には、たくさんの軍人たちとその家族が住んでいる。

えりこさんは、何年か前に、ジョナサンという名前のアメリカ軍人と結婚した。沖縄市の軍人が通うバーで出会って、三ヶ月後のことだった。その頃ジョナサンは沖縄に転勤してきたばかりで、友達も少なかった。ジョナサンはえりこさんに日本語を教えてもらい、沖縄を案内されて、お互い好きになっていった。基地のゲートのそばにある軍人専用のアパートに二人で暮らし、生活自体はうまくいっていたのだが、何年かして、夫がおかしなものにはまりこんでいることを知った。

ある時、それまで信心深かったジョナサンは、ベースのなかの教会に行くことを拒んだ。それまでは熱心なプロテスタントの信者で、日曜日になると教会に集い、牧師たちや教会員とも仲が良く、一緒にファミリー・ホーム・イブニングと題して食事会も度々行っていた。そんなジョナサンはある日のこと、他の小隊に属する仲間から別の教会を紹介されたようで、徐々になじみの教会から遠ざかり始めた。最初は小さな変化だと思っていたのだが、次第に様相がおかしくなり始めた。

ある日の夜、ジョナサンはいきなり居間の壁にかかっていた十字架を、上下さかさまに飾りだした。またイエス・キリストや聖母マリアの絵などを、すべて風景画に変えて、それらの絵を生ゴミと一緒に捨てるようにえりこさんに命じた。

「どうして? 今まで信じていたんじゃないの」えりこさんは夫に尋ねた。

「信じてはいるが、意味合いが違うんだ」

「どういうことなの?」

「イエスもマリアも、いることはいるさ。でもそれより強力なものがあることを知ったんだ」

それから、ジョナサンは陰気になり、今まで付き合っていた家族や仲間たちと決別し、えりこさんが知らない仲間と遊びだした、彼らはジョナサンが所属する小隊ではなく、別の小隊の所属で、どうして仲間になっているのかわからなかった。普通、軍人たちは同じ部隊に所属しているか、出身地が同じか、同じ時期に学校を卒業したなどの理由で仲間になることが多かったが、今回のジョナサンの交友関係は異例だった。みな、所属がばらばらで、好きなスポーツも趣味も何もかも違った。

それでも彼らは夜になるとジョナサンのマンションや、他の仲間の家に集まり、遅くまで話し込んでいた。表面上はえりこさんにも愛想良く接したが、どこか冷たい感じがするのはいなめなかった。

ある夜、えりこさんが眠っていると、ジョナサンが遅く帰って来たのがわかった。半分眠っていたえりこさんは、そのまま眠り込んでしまった。と、しばらくして、何か息苦しさを感じて、えりこさんは目を覚ました。

ベッドの脇にジョナサンがぼんやりと突っ立っているのが見えた。

「ジョナサン?」

えりこさんの問いかけにも、答えようとしない。ジョナサンはぶつぶつと、英語で念仏のような言葉を唱えている。

次の瞬間、ひどい金縛りがえりこさんを襲った。体がしびれて、動くことができない。

助けて! 悲鳴を上げることもできなかった。えりこさんは心の中で悲鳴を上げた。

次の瞬間、ふと、金縛りが解けた。

すぐさま起き上がったえりこさんは、ジョナサンに飛びついて、身体をゆすって意識を元に戻そうと試みた。

ところがジョナサンは、まるで催眠状態にかかったかのように、聞いたこともないラテン語のような呪文を口走りながら、意識をえりこさんに合わせようとはしない。

結局その夜はジョナサンはそのまま意識を失い、朝起きたときにはすべてをすっかり忘れていた。

「あなた、昨夜おかしかったわよ。変なラテン語みたいな言葉を喋ってた」

「覚えてないな。どうしてそんなことをいうんだ?」

「どうしてって、私、怖かったから…」

いくら昨夜の出来事をジョナサンに説明しようにも、相手にはまったく通じなかった。

ジョナサンとえりこさんは、ともにダイビングという共通の趣味があった。付き合い始めた頃は、二人は他の仲間と一緒に毎日のように海に潜りに出かけた。結婚してからもジョナサンは一人で潜りに出かけたりしていたのだが、ある日のこと、彼は仲間と満月の夜にダイビングに出かけた。そして一匹の大きなほら貝を生きたままマンションに持ち帰った。

「これ、どうするの。食べる気?」えりこさんは聞いた。

「いや、腐らすんだ」

「なんですって?」

「いいから。お前は気にしなくていい。これは一種の儀式(RITUAL)だから気にしなくていい」

そういってジョナサンはほら貝を生きたままバケツに入れて、その上からキッチンハイターをかけた。ほら貝はすぐ丸まって死に、ジョナサンはそれをキッチンシンクの下に入れた。

「さわるな」きつい口調で、ジョナサンは命令した。

次の日から、それが異様なほど、酷い臭いを発し始めた。

換気扇をつけても、芳香剤をまいても、用意に消える臭いではなかった。

この世のものとはおもえない臭気が、えりこさんの部屋に充満した。

ところがジョナサンはまったく気にするようでもなく、夜になると平気でビールを飲み、テレビをつけてくつろいだ。えりこさんが臭いの話をしようものなら、「お前が知るようなことは何もないんだ。無視するのが軍人の妻の勤めだ」ときつい口調で反撥した。

このころから、えりこさんも精神に次第にひびが入るようになってきた。

これは、これから始まる出来事の、ほんの序章でしかなかった。

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すべての終わり 黒魔術に関する話 その六

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