神様の会議(沖縄県) | コワイハナシ47

神様の会議(沖縄県)

嘉手納さんがある朝、拝所の掃除をしていると、なにやら騒がしい音が響いてきた。五人くらいの髭を生やした老人がいきなりやってきて、嘉手納さんに機関銃のような口調でなにやらまくし立て始めた。

「○△×○&%%%%#◇!」

意味がまったく分からない。

「なんですかねー。もっとゆっくり言ってもらえますかねー」

すると一呼吸置いてから、老人が喋り始めた。

「私たちはこのあたりの神様だけどね。これから会議があって久高島に行ってくる。あなたにお願いがあるんだけれど、昼過ぎになったらひとりのナイチャーが私に会いに自転車に乗ってやってくる。もし来たら、我々は久高島に行っていないからって、そう伝えてください」

神様たちは、そういい残して消えていった。

ああ、今日は騒がしい一日さー。嘉手納さんは思った。

何せ、朝から神様を見ちゃったからねー。

昼前になり、公民館で弁当を食べていると、顔見知りのユタの米子オバアがやってきた。米子オバアは若い頃は高名なユタだったが、最近では痴呆も入って、少々不安定な感じである。

「どこからかー?」

これが宮古島出身の米子オバアの挨拶である。「調子はどうね?」ぐらいの意味で使われるらしい。

「米子オバア、今朝ね、拝所に神様が来たよ」

「ああ、私のところにも来たさ。会議があるって。でーじさ」

「米子オバアのところにも来たって?」

「ええ、恵さんよ。でーじさ。どこからか?」

「今日ね? 調子はいいはずよ」

「ええ、でーじさ」

そういい残して、米子オバアは帰っていった。

それからしばらくして、誰かが公民館の入り口で「すいません」と言った。若い女性の声だった。

嘉手納さんが出て行ってみると、そこには誰もいなかった。また事務所に戻ってテレビを見ていると、「すいません」と声がする。だがどこを探しても、誰もいない。

「誰ね?」嘉手納さんは公民館の入り口で聞いてみた。

すると駐車場側の窓に、一人のビジネススーツを着た女性が立っているのが見えた。だがその顔は恐怖にゆがんでおり、断末魔の悲鳴を上げた様相のまま、固まってしまった感じだった。一目見て、あまりよくないものだと感じた嘉手納さんは、急いで裏口から出て、そのまま拝所の中に逃げ込んだ。

「神様、助けてください。変なのが公民館の駐車場にいます。助けてください」

その時、ふと心の中で声がした。

「わたしたちはいま、ここにいません」

そりゃないでしょ。

嘉手納さんは駐車場の変な女に聞こえないように、小さく悲鳴をあげた。しかし拝所を出ても、他に行くところもない。そこで嘉手納さんは娘の一人に授業中と知りながらも、携帯メールを送った。

「母さんより。公民館で恐ろしい女の幽霊に襲われてる。助けにきて!」

すると一分もしないうちに娘から返信があった。

「おかあさん。チョーうけるんだけど。心霊写真撮ってね!」

嘉手納さんは娘にはまったく内容が伝わっていないのに歯がゆい思いをしながら携帯を切った。しばらく拝所の壁にもたれていたが、どうにも公民館に戻る気は起こらない。

やがて、拝所の入り口に誰かが自転車で乗り付けてくるのが分かった。リュックを背負った、三十代くらいの若いナイチャー(本土出身者)だった。

男性は自転車をおりるとゆっくりと拝所に向かって歩いてきた。嘉手納さんを認めると、「こんにちは、すみません」と声をかけてきた。

「はい。なんでしょうか?」

「ここは○○拝所ですか?」

「そうですよ。あ、あんたねえ?」

「はい、なんでしょうか?」

「今朝だけど、このあたりの神様が駆け足でやってきて、自分たちは神様の会議があって久高島に行くから、もし自転車に乗ったナイチャーがやってきたら伝えてくれって、そういい残して去っていきよったよ」

「ああ、そうなんですか。ありがとうございます。だいたいわかりました」

男性はペコリと頭を下げると、また自転車に乗って去っていった。

ああ、あれだけで伝わったんだ、と嘉手納さんは思った。

そして、去っていく後姿を見て、嘉手納さんは思わず悲鳴を上げてしまった。

男性の背中に、さっきの駐車場にいた女が鬼の形相で抱きついていた。なのに男性は口笛を吹きながら、さっそうと自転車を漕いで、そのまま道の彼方へと消えていった。

あの男性と女性がどのような関係だったのかは、今もって嘉手納さんにもわからない。

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