私の小指(東京都) | コワイハナシ47

私の小指(東京都)

銭湯やクリーニング店は川に隣接した土地に集中する傾向があるという。私と同い年の彼女の実家は都内でクリーニング店を営んでおり、かつては家のすぐ近くに銭湯と暗渠(埋設された川)があった。

「十歳くらいの頃、その銭湯へ行ったときのことですが、髪を洗っていたら、足もとの排水溝を肌色をした指が流れてきました。血はついていなくて、とても細い、綺麗な指でした。小指だったと思います。驚いてワッと叫んだんですけど、指はするする流れていって、見失ってしまいました」

ところが翌朝になって、家の前をはしっている道路の側溝に小指があるのを見つけた。溝板が一枚ずれていて、隙間から側溝の底が見え、そこにコロンと転がっていた。

「きっと銭湯から暗渠に入って、どうやってかはわかりませんが、そこまで流れてきたんですね。妙に清潔な感じで、作り物みたいでした。銭湯から帰ったときも、母親に話したら、堅気じゃない女が義理立てして指を詰め、義指をしていたのが、入浴中に外れてしまったんだろう、と。昔はそういう店も多かったらしいんですよね、実家の辺りは」

指を置き去りにして、彼女は小学校へ登校した。下校してきたときには溝板が元に戻されていて、指を確認することはできなかった。

月日は流れて、二十代の頃、彼女は交通事故に遭あって怪我で左手の小指を失い、義指を作ることになった。出来あがった小指の義指は子供のときに見た指とそっくりだった。

「将来小指を失くすことになるのを暗示してたんじゃないかと、因縁めいたものを感じてしまいました」

それから再び歳月が経ち、件の銭湯が近々廃業すると知らされた。にわかに郷愁にかられて実家を訪ねたついでに銭湯に行った。

ところが、入浴中に義指を紛失してしまった。

洗い場をくまなく探したが見つからない。昔のことを思い出し、外の排水溝を見ようと思ったが、溝板は景色から消えていた。下水道が整備され排水が地下を流れるようになって久しかったのだ。

義指を探すことをあきらめて、翌日、自分のうちに帰った。同じ東京都内だが、実家とは三十キロほど離れている別の区のマンションに彼女は住んでいる。帰宅したときはひどい土砂降りで、マンションのエントランスの前に雨水で川ができていた。

「夜のうちに雨は止んだんですが、あくる日のお昼頃、私が義指をつけていることを知っていたマンションの管理人さんが、小指を届けに来たんです。エントランスの前に落ちていたそうです。間違いなく私の小指でした。水に流されてきたのでしょうか」

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