再会したタクシー運転手の話(東京都渋谷区) | コワイハナシ47

再会したタクシー運転手の話(東京都渋谷区)

「あれえ?お客さん、先月お乗せした怪談好きな作家のセンセイですよね?どうもこんばんは。今日もご自宅まで?憶えてますよ。青山墓地のお近く。そうですよね?

怖い話、また聞きたいですか?……では話します。先週の土曜の夕方に渋谷駅からお乗せした中年の男女が変わった人たちで、大きなスーツケースをお持ちなのに、それを後ろのトランクに入れたがらないんですよ。じゃあ助手席の方に置きますかって勧めたら、自分たちで持っておきたいから放っておいてくれって言うんです。

脛に当たって怪我でもされたら面倒なことになると思ったけど、二人とも頑固そうにムスッとした顔をしていらしたので、好きなようにさせることにして行き先を訊ねました。

そしたら竹芝桟橋まで行ってください、と。竹芝は大島や小笠原諸島に行くフェリーの発着場だから、夏になるとお客さんをお乗せして行くことがたまにあります。

ただ、夏にあっちの島に行くお客さんはたいがい観光客っぽいラフな服装で、態度も少し浮かれてるもんです。でも、その人たちは沈んだ感じで、わけありな雰囲気でした。

会話しづらい空気だったから私も静かにしてたんですけど、走りはじめてすぐに、後ろから硬い物を握りこぶしで叩くような音が聞こえてきました。

コンコン、コンコン……って。お二人のうちどちらかがスーツケースを小突いてるんだなとピンときました。苛立つと机や何かをコツコツ叩く癖がある人っていますよね。触らぬ神に祟りなし。私、何も言いませんでしたよ。キレられたら困りますから。

でもね、コンコンコンコン、音はずっと鳴りつづけて、少しづつ叩き方が激しくなってきましてね。最後の方になると、ドシン!ドシン!って。これにはさすがに怖くなって、『お客さん大丈夫ですか。もう到着しますよ』と、ついに声をお掛けしたんです。

すると、ますます音が大きくなるじゃありませんか。私は慌てて、『失礼しました!』と謝りました。だけど竹芝桟橋で二人を降ろすまで叩く音は鳴り止みませんでした。

男性がお財布を取り出してお会計する間も、ずうっとね……。それでようやく気がついたんです。さっきからの叩く音は、スーツケースの内側から聞こえてたってことに。

おまけに空耳かもしれないけど、男の方が先に降りてスーツケースを引っ張って降ろしたとき、中から『タスケテ』って子供みたいな声がしたような気がするんです。

全部、私の気のせいか、そうでなきゃ怪奇現象だといいんですけどねぇ。子供を見殺しにしたってことだと、後味が悪すぎますから」

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