常紋トンネルの人柱・その2(北海道網走) | コワイハナシ47

常紋トンネルの人柱・その2(北海道網走)

今は昔、戦前の話である。昭和7年のことだった。

石北本線の雪山をSLが通る。急こう配を上がり、常紋トンネルを通る道だ。

当時、北海道の開発の仕事で、あちこちを視察していた商社マンだった高橋さん。初めてこの地域を視察に来た時だった。

夜更けの汽車に乗り込むと、この車両に客は高橋さんしかいない。寒さもあって、少し高橋さんは眠ることにした。

常紋トンネルに差し掛かるころ、耳元で話す声が聞こえる。

目を覚ますと、ガラガラだった車内の席が満席になっていた。

炭鉱労働者のような服装、薄汚れた格好の男達でひしめいていた。

その当時でもビジネスマンはスーツだったので、ホワイトカラーとブルーカラー(労働者層)はすぐわかった。

男たちが歌を歌い始めた。炭鉱の唄だかしらないが、お経のように耳に響いた。鎮魂歌のように地響きがする。

隣の男も歌っている。あまり響くので、

「ちょっと静かにしてくれよ」

するとほぼ全員が高橋さんを見た。

ぎょっとした。男達の顔がみな同じように、顔面がふくれあがっていた。

紫いろに変色した顔、目の周りが真っ黒の顔……。そして透けていた。

「すみません……」

トンネルを通過する間、また歌が始まった。まるで高橋さんまでこの汽車に乗って地獄でもいくかのように。目を閉じ、心の中でお経を唱えた。

トンネルを抜けてしばらくして静かになった。

恐々目を開けると、労働者たちはいなくなっていた。

当たり前だが、この間に乗り降りできる駅などない。

切符を切りにきた車掌にこのことを話した。

「ああ、またですか。よく出るんですよ、この辺り」

「常紋トンネルですか?」

「まあね。労働者が埋められてるとか、色んな噂あるからね。私の同期もあのトンネル近くで変な霊に会ったとか言って、この前狂って自殺しましたよ」

「自殺?」

「トンネル工事の被害者の霊でしょうね。ここ、色々あったみたいで」

車掌が慣れた手つきで切符に切り込みを入れ、去って行った。

駅に着いて、駅員にその話をした。夜更けというのに数人の駅員がいた。

「……と車掌が言うんだよ。あのトンネル出るってほんとかい?」

「車掌? そんな人いました?」

「俺は切符を切られたよ」

駅員が顔を見合わせた。

「今は不況でね、夜のこの時間は運転手以外鉄道員は乘りませんよ」

常紋トンネル、開業以来、労働者の霊の噂は絶えず、何度も霊に出会ううち本当に憑りつかれて死んでしまう鉄道員もいた。

運転手の中には、トンネルの中で霊がおいでおいでしているのも見たという。

もしくは自殺する家族がいたり、不幸は続いた。

いわくつきの場所には、何かある。

人柱にされた労働者は生き埋めの者もいた。苦しくて窒息して死んだ。

腫れあがった霊たちの顔は、亡くなった様を見せるかのようだ。

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