利根川で会った人(茨城県稲敷市) | コワイハナシ47

利根川で会った人(茨城県稲敷市)

千葉と茨城の県境となる利根川。その中にかかる橋の下での話だ。

河原ではキャンプをすることができ、鯉釣りなども楽しめる。

お盆休みに、和也さんが高校時代の仲間3人で釣りをしていたときの事だった。

夜はテントで眠るからと、夕食後、したたかに飲んだ。

一緒に行ったのは、消防署に勤める蓮君、地元の会社員の祐樹君。和也さんは塗装業を営んでいた。元々お酒が弱い和也さんは、ノンアルコールビールを飲んでシラフだった。

「ちょっと行ってくる」

祐樹君がフラフラと立ち上がり、川に立ちションをした。

「おい、汚ねえなあ……その水飲んだ魚食うのかよ!」

と2人は笑っていた。祐樹君はふざけてファスナーを開け、前を出したまま突進したり、結構酔っぱらってふざけまわっていた。ところが何かにぶつかったのか、尻もちをついて倒れた。すぐ立ち上がると、何もない前方に頭を下げている。

「あ、どうもすみません、はい」

祐樹君が誰かに頭を下げたり笑ったりしている。もちろんファスナーからイチモツは出たままだ。

頭を下げてる相手を見たが、誰もいない。

すると今度は蓮君がそこに走って行った。タオルを持って。

「祐樹! かっこ悪いだろ、デリカシーなくてすみませんねえ」

と、モロ出しの祐樹君のファスナーの辺りをタオルで隠した。

(誰と話してるんだ?)

和也さんは不思議に思った。どうみても相手の足も何も形が見えない。

「祐樹、もう行くぞ!」

蓮君が急に荒々しい声に変わった。

「何だよ……蓮、もう少しで落とせそうだったのによお」

「……やめとけ。無理だ、絶対無理」

「相手も俺のこのモノ見て発情してただろうがよお」

「するわけねーだろ、おめーのモノなんか見苦しいだけだ」

「んだよお……」

2人がやや揉めるようにして戻ってきた。和也さんは不思議そうに聞いた。

「誰かいたのか?」

「ああ! 女、女! 結構美人だったぜ、黒い髪が長くてさあ、華奢で〜」

と祐樹君が生き生きした顔で言った。蓮君はそのことについては黙っていた。

その夜は蓮君が「お腹が痛くなった」という理由で泊らずに帰ることになった。もちろん車を運転するのは、飲めない和也君だった。

テント等を片付け、真っ暗闇の中、車を走らせた。先に祐樹君を送り届けた。

「じゃあな〜またな〜」

かなり酔った雰囲気で、祐樹君は家に入った。

次は蓮君の家。祐樹君の家から蓮君の家までは20分ほどの距離だ。蓮君が語り出した。

「さっきな、しゃべってた女の人な、気づいたんだよ俺」

「その前に誰と話してたんだよ。さっきから女の人女の人って。俺見えなかったんだけど」

「え?……そうだよな、やっぱりな。お前には見えねえだろうな」

蓮君はうつむいて、ぼそぼそ話し出した。

「あの女の人、そっくりなんだよな」

「誰に? 昔の女か?」

「ちげーよ。自殺した人にだよ」

「……なんだ自殺って」

「祐樹とあの女の人と会ったとこ、川の傍のとこにさ、打ち上げられてたんだよ」

「……何が?」

「あの女の人と同じ顔、同じ服の人が手足逆向きに折れ曲がって、打ち上げられてたんだよ。あの橋から投身自殺したんだよ。俺、救急車に乗せたんだよ、まさにあの人だった……」

「えっ……てことは?」

「……俺達が見たのは、その幽霊だよ」

そう蓮君が言ったとたんに、和也君は全身に寒気が立った。

「だから、やべえなと思って泊まらずに帰ったんだ。この話、まだ祐樹には内緒な。あいつ完全に見えてたし、霊感強いんなら余計やべえと思ってさ」

「お、俺にもするなよ、そんな話」

和也君が交差点の赤信号で止まった。

ユラユラと横断歩道を歩いていた人物が、突然フロントガラスに顔を近づけてきた。

「おい!」

酔っぱらった雰囲気の赤い顔をした男性だった。目が血走っているが、死人ではなさそうだ。ドンドンと扉を叩く。何か一生懸命言ってるので、窓を少し開けた。

「車の上に女が乗ってるぞ。降ろしてやれよ!」

指を車の上に差して、すごい剣幕で怒鳴ってきた。

「女? 乗せてませんよ」

「嘘つけ。髪の長い女がしがみついてる。降ろしてやれって!」

車内の2人は顔を見合わせた。

「憑いてきたんだ……河原からあの女……」

和也君と蓮君はびっくりして、そのおじさんを振り切って信号が変わると同時に車を走らせた。バックミラー越しに見ると、そのおじさんは横断歩道の真ん中で倒れていた。

「しまった、俺、ひき殺してねえよな?」

「大丈夫だ……あの人も生きてる人じゃねえよ……あの人も見たことあったな」

和也さんは焦った。蓮君を見ると今まで見たこともないような真っ白い顔色をして、あらぬ方向を指さしてブツブツ言っていた。

そのまま蓮君を家の前で降ろした。一人で車を走らせるのも怖くて嫌だった。何とか無事に帰りつき、家で爆睡した。父に借りていた車のキーは台所の机の上に置いた。

念のため自分には大量の塩をかけ、背中をたたいた。

何だか後ろに女が立っていそうだったから。

次の日の夜、和也さんの父親がガードレールにぶつかる自損事故を起こしたと連絡が入った。父親も足の骨を折る大けがで病院に入院となった。

慌てて和也さんが病室に駆け込むと、父親が変な事を話し出した。

「横断歩道でさ、女がいきなりフロントガラスに顔をくっつけてきたんだよ。で、どけってドア開いたらいなくてさ……ドア閉めて走り出したら、隣に座ってたんだよ!」

「そ、その女が?」

「いや、隣に乗ったのはおっさんだったんだ」

「どういう意味?」

「俺にもわかんねえよ。隣見たらおっさんで、何で乗ってんだ? ってびびった時にはガードレールが目の前でよ。もう少し手前だったら、崖から落ちてたよ」

「そのおっさんはどこ行ったんだ?」

「知らねえ。ぶつかってからは全然記憶ねえよ。あの辺で事故った霊じゃねえか?」

その事故現場の場所を聞いた。

まさに昨日、文句をつけてきた男性を見た交差点だった。

蓮君にそのことを聞こうと電話した。力のない声で蓮君が答えた。

「昨日のおじさんの顔、思い出した。あの橋で自殺したの、二人だったんだよ」

「……」

「あの人が見つかった場所より下流で見つかったんだ。だから……」

和也君はそれ以上聞くのはやめて、電話を切った。

その後、3人でキャンプや釣りに行くことはなくなった。

最初に帰した祐樹君は、その日から体調を崩し、原因不明の難病になって治療している。蓮君は精神的に不安定になり、消防士の仕事を辞めて自宅療養している。

和也さんの父の車は廃車にして、家中をお祓いした。その後は何も不幸は起きなかった。

後から警察で聞いたことだが、自殺した2人は全く面識のない2人だったそうだ。

どちらかが、落ちようとするのを止めて謝って転落したのではないか、と言われている。それがどちらかどうか、遺書もないので調べようがないが、おそらく女性を止めようとしたのがおじさんの方だろう、と和也さんは感じた。

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