ゼロ戦を埋めた庭(茨城県 筑波海軍航空隊) | コワイハナシ47

ゼロ戦を埋めた庭(茨城県 筑波海軍航空隊)

常磐線の友部駅から3キロメートルほど行った所に「こころの医療センター」がある。

その敷地内に旧海軍飛行隊の記念館がある。ここは映画『永遠の0』のロケ地でもあり、実際に戦時中は海軍の指令室があった建物だ。

この建物の裏庭には病院の廃墟があるので、オカルト映画の撮影にも使われる。

裏庭は精神科の病院があった。建物もこの指令室に合わせたような色合いでグレーに近い。

普通の病院と違うのは、患者用の個室に鉄格子があるというところだった。

今は、病院の機能は新しい医療センターの建物に移り、ここは誰も使わない建物だけが残っている。なぜ取り壊さないのかは不明だが、戦後の建物遺産は貴重だ。

映画制作スタッフの吉田さんがこの廃墟病院でのロケハンの為に訪れた。オカルト映画を撮る予定で、いくつかの候補としてこの裏庭の精神病院の廃墟を訪れることになった。映画監督兼プロデューサーと一緒に行った。

冬だったので、日中でも薄暗く、いかにも不気味な空気感が漂っていた。

渡り廊下を歩くと、向こう側までが見えるにも関わらず、何か立っていそうだった。

「一応、この辺りには特攻で亡くなられた方の慰霊碑もあるから、ちゃんと手を合わせてから行こうな」

「そうですよね、それを聞くと兵士の霊が出そうな気がしますよ」

吉田さんはオカルト映画の製作中に何度か不思議な体験はしたが、幽霊は見たことはなかった。そして70年以上も前になる戦争のこともあまり興味がなかった。

映画監督と裏庭を拝んでから前に進んだ。奥に慰霊碑があったが、墓石が薄れていてよくわからない。ただ、この辺りだけ妙に人の視線を感じる。管理人でもいるんだろうか。

ぐるっと広い敷地内を歩き、廃墟を眺める。

人がいない大きな建物のまわりは独特のひんやりした空気が流れ、なかなか良い。

カーテンなども良い感じに破れている。

こうしてロケなどに行くと、全く人が管理していない物件とそうでないものがあるが、ここは後者だった。何より下手な落書きなどがない。

ただ、今回の映画ではもっと薄汚れたスラム街のような雰囲気が欲しかったが、ここではまだ人がそこに住み、息づいているような感覚があった。

「監督、ここは……なんか廃墟っぽくないですよね? もうすこしスラム街みたいなイメージにしたいですよね……」

急に監督の顔色が変わった。声をひそめた。

「うーん。そうだなあ。ここってさ、海軍の金塊とか埋まってないかな。実はさ、そんな噂もあんだよね、これだけだだっ広い国有地、何かあるって」

「まさかないでしょ。それに怒られますよ、掘り返したら」

「映画用で穴掘らせて下さいって言えばいいんじゃねえかな。今回の脚本さあ、人埋めるシーンあるじゃん。それ用の穴って言えばいいよ」

吉田さんは監督を見た。この映画、こんな人が仕切りで大丈夫なのかなと一抹の不安がよぎった。自分だってあまり軍隊には興味ないけど、埋蔵金なんか狙ってるとは思いもよらなかったのだ。

さっきから感じる視線がまた気になる。誰かに聞かれていたら面倒だ。

記念館の受付女性にロケのスタッフですと伝え、挨拶をした。彼女は大学生ぐらいの若さに見えたが、こうした軍の歴史等にとても詳しいようだった。

この記念館の方は海軍が無くなってからは小学校や病院に移り変わり、今こうして記念館として特攻隊の方々の遺品や写真、零戦の他に「桜花」など爆薬を積んで敵に体当たりした戦闘機のことが詳しく展示されていた。

展示室の中に入ったとたん、全身を寒気が襲った。

「監督、何か急に寒くなりましたね」

「え? そう? ああ、雨が降り出したからかな」

どんよりした雲が立ち込めていたが、ついに雨が降り出したようだった。

窓からふと裏庭の方を見ると、傘を持たずにじっと立っている人がいる。

その人は17、8歳くらいにも見えるし、40代くらいにも見える。白いワイシャツを着て長ズボン、小柄な男性だった。

じっと立って雨に打たれている。

ただ、寒さで霧が出てきているのか、輪郭がぼんやりとしている。

「監督、そこに立ってる人、何なんでしょうね?」

「え? どこ?」

「ほら、ここから見えるでしょ」

監督を自分の位置から裏庭を見せた。

だが、彼が窓から見た時は、もうその男はいなかった。

「いないじゃん。脅かさないでよ」

「あれ、今までいたのに……」

そう言った瞬間、背後に人の気配を感じた。まるで瞬間移動のように、さっき庭で見た男性が真後ろに立っている。そんな感覚だった。鳥肌が一気に立った。

「か、監督、僕の後ろに誰かいますよね?」

「何バカなこと言ってんだよ、変な演出すんなって。怖がらせようと思って……」

「いや、違いますって。マジで絶対いますよ」

「いねえって。写真でも撮ってやろうか?」

監督は持っていたスマホのカメラで写真を撮った。

撮った写真を見てしばらく黙り、目をこすっていたが

「なんだ。急に電池容量がなくなったみたいだ、充電して後で見せるな」

とだけ言って、先を歩いていった。

受付の女性に聞いてみたが、他にロケハンに来た連中もいないし、雨の中、立っている人なんていないという。

「でも、この裏庭の方には……見たかもって話はありましたよ。特別悪さをするわけじゃないんですけど、まあ見かけたって話は聞いたりしますね」

「……やはり兵隊さんの霊が……?」

「いえ、普通の人みたいですよ……じっと立ってるだけの」

吉田さんと監督はそれを聞くと、さらに悪寒がした。

もう一度2人は病院や敷地にある建物すべてを拝んだ。裏の奥にあった慰霊碑は、ここで亡くなった部下のために碑を作った上官のものだった。厳しいイメージのある軍隊だが、そうした心ある上官もいたのだなと吉田さんは思った。

あちこちハンティングした写真を現像して後日打ち合わせに行った。

監督が撮った写真に1枚妙なものが映っていたと話題になっていた。

「えー、どれですか? 見せてくださいよ!」

吉田さんが聞くと、全員が凍り付くように黙った。

監督がおずおずとその写真を見せてくれた。

吉田さんが記念館の中で撮った写真だった。特に変なものは映ってなかった。

「これのどこが怖いんですか〜!」

笑いながらゆっくり見る。

「気づかない?」

監督が心配そうに吉田さんを見ながら言った。

「吉田くんの肩から下……うしろの窓が透けてるよ」

吉田さんの身体が半透明になって映っていた。一瞬、あの輪郭がぼやけた裏庭の男性を思い出し、そこから悪寒が止まらなくなった。

その後、吉田さんは原因不明の腹痛となり高熱が出た。お払いに行き写真も祈祷した後捨ててもらい、事なきを得た。

だがその後、この映画自体はおじゃんになった。

監督がギャンブルの借金返済のために映画予算を使い果たし、夜逃げしたからだ。今も連絡が取れないままだそうだ。

撮るな、もしくはこの男に気を付けろというお告げだったのだろうか、それとも、ここに何か埋まっているよと言いたかったのか……吉田さんは振り返る。

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