呼ぶレーサー つくばサーキット・1(茨城県下妻市村岡) | コワイハナシ47

呼ぶレーサー つくばサーキット・1(茨城県下妻市村岡)

ストレート区間が短いと言われるレース場・「筑波サーキット」。

第1コーナーはトップスピードからフルブレーキしながらコーナーに進入する。そのため事故が多発し、年々数多くのドライバーやライダーが命を落としている。

だが、そういった事故が起きていることは特に報道はされない。あっても地元の新聞に小さく乗る程度。それくらい、レース事故は当たり前のようになっている。

「俺も何レースか参戦したが、つくばサーキットには良い思い出がないんだよ」

と木田さんは語る。

ある年の「関東選手権」という大会の時、不吉な出来事は予選レースから始まっていた。

予選レースが開始し、木田さんがコースインして第1コーナーの手前、50メートル看板の所に見知らぬ男性が立っている。そこは立ち入り禁止区域で、人が居てはならない。

容姿はレーサーの恰好でもなく、普段着のおじさん。一般客のようだった。

こちらを睨み付けて、何かをブツブツ言っている。

(何でオッサンがこんなところにいんだ……?)

木田さんはついそっちに気がいってしまった。

一番集中するべきコーナーだというのに。

そして、「タイムアタック」という2周目のストレートを走行中、あり得ないことが起きた。

突然左ステップが折れたのだ。当然、足でシフトチェンジできないので、手でシフトを変えながらピットに戻った。

大慌てで予備のパーツと交換してコースに戻りタイムアタックした。

なんとか予選は通過した。

数周回した間にも先ほどの男性は立っていて、何かを言っている。

だが、その言葉がやっと聞き取れた。

「レースやめろ」

こんな轟音の中で、低く重くはっきり響くその声。男の顔はまるきり生気がなかった。

(こいつ、『生きてない』……!)

木田さんが気づいた瞬間、全身に震えと悪寒が走る。

とにかくハンドルを握りしめる。見ちゃいけない、もう目をあわせちゃいけない……と。

決勝レースが始まって3周目のストレートの終わり、第1コーナーの手前にきた。

やっぱり先ほどの男性がこちらを見てニヤニヤ笑っている。嫌な笑顔だ。

次の瞬間、金縛りにあい全身が動かなくなってしまった。

(どうする! 体が動かない! このままじゃ死ぬ!)

心でありったけ叫び続けた。もちろん声も出ない。

体がまったく動かないまま何もできずに目の前に壁は迫ってくる! 何とか体を動かそうと脳から指示を出すが、手足がびくとも動かない。俺の脳がイカれちまったのか!?

当然アクセル全開でノーブレーキ、トップスピードのままストレートを駆け抜け、止めることができないまま、彼は第1コーナーの壁に激突した。

無論車体は大破。木田さんはそこからとある場所に行くまで、全く記憶がない。

気が付くとそこは、大草原だった。あれ? 三途の川じゃないのか、と思った。

レース場にいた、あの男性が立っている。笑顔で手を振っている。しっかりと男の声が聞こえた。

「こっちに来い」

木田さんは言われるがまま、そっちに行こうとした。

1歩目の足を出した時、見知らぬ老婆が彼を止めた。目の前に急に現れ、行く手を阻む。

「そっちに行ってはいけない。おばあちゃんと一緒に来なさい」

老婆に言われるまま足を止めた。すると草原に風が吹き荒れ、全く目の前が見えなくなった。男性も見えなくなり、老婆が彼をじっと見つめていた。

そして気が付くと病院のベッドの上だった。全身を強く打ち、大腿骨を骨折し、骨が内臓を突き刺していたため、相当な出血量だったという。

大手術の後も意識が戻らず、1週間生死をさまよっていたそうだ。

驚いたのはその後のことだ。

木田さんが山形にある母親の実家を初めて訪れた時だ。母親は若い頃駆け落ちをしたため、まったく実家に帰らなかったが、急な家族の事情で20年ぶりに行くことになったそうだ。

木田さんはご先祖の供養された仏壇に手を合わせる。

仏壇の上を見上げると、額に飾られた遺影があった。それを見て驚愕した。

あのとき草原の夢の中で見た、見知らぬ老婆は彼の祖母だったのだ。

今まで一度も見たことがなかったので知らなかったのは無理もない。

母親とソリが悪かった祖母が、孫のために出てきたのだろうか。それから木田さんは山形へのお墓参りを欠かさないようになった。

その後のレースでは、危ない事故にあってもギリギリで助かることが増えた。

あのレース場で叫んでいた男は、自分と同じように事故に遭い、亡くなった地縛霊かもしれない。もしくは死神だったのか。思い出すと気分が悪いと木田さんは語る。

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