筑波海軍航空隊(茨城県笠間市旭町) | コワイハナシ47

筑波海軍航空隊(茨城県笠間市旭町)

模型作家のYさんが不思議な体験を語ってくれた。彼は戦艦や空母、巡洋艦なども作るが、兵隊のフィギアや戦闘機も作る。ほとんどが紹介とインターネットでの受注で、発注相手の好みに合わせて作る。軍マニアや彼の模型ファンの中にはお金に糸目なく支払う人もいるくらい、人気が高い。

とあるお客様からの電話注文を受けた。

そのお客様は、どこからかYさんのことを聞きつけたようで、自宅に直接電話がかかってきたそうだ。『林』と名乗る男性だった。依頼主は偽名を使うこともある。

戦艦『大和』と『武蔵』はセットで人気がある。このお客様は大和型の航空母艦『信濃』を注文してこられた。

『信濃』は回航中にアメリカの潜水艦の雷撃によって沈められた、幻の未完成空母と呼ばれるものだ。そして資料がかなり少ない。

航空母艦(空母)とは、海軍の飛行隊の戦闘機『ゼロ戦』がこれに乗せられ、離着陸する母なる船である。

「あと、ロケット弾の『桜花』を頼みたいのだが……いいですか?」

「『桜花』ですか……あの特攻機の走りの人間兵器……『神雷部隊』の……ですよね」

「そうです。よくご存じですね……で、すぐにはできませんか?」

「いや、追加料金があれば優先的に造りますけども。これは注文される方が少ないので、少し調べますので時間がかかります。桜花にも形状が色々ありますが……」

「あなたのこれだと思う形の『桜花』でいいです」

電話を切った後、はて? と思った。『桜花』は一式陸上攻撃機に吊るされ、敵艦の近くで発射するロケット機なのだ。これを有人操縦して、そのまま突っ込んで爆破させていた兵器だ。特攻と言われる戦法の走りだった。もちろんこれに乗りこんだ者は生存率ゼロだ。

これも特殊な模型なのでそれなりの金額を要求したが、幾らかかっても良いという答えだった。よほど好きなんだなと思い、急いでその日から作業にかかった。

深夜から明け方までがYさんが最も集中する時間帯であり、作業時間だった。朝方から昼過ぎまでが睡眠時間。当然同居の親とは時間が合わない。

昼過ぎに起きて顔を洗っていると、母親にこう言われた。

「夜は何だかバタバタ走り回ってたなあ。何かあったっぺ?」

「夜? ずっと模型作ってたっぺ」

「誰か友達が来てなかったか? 家の中も歩く音がひっきりなしでよ」

「誰も来てねえよ……ネズミでもいんじゃねえか?」

Yさんは笑いながら、母親の言葉に妙な胸騒ぎを感じていた。

(人間ロケット弾を作ってるんだもんな……何か出てきてもおかしくねえよ)

信濃は沈没した空母、桜花は爆弾を搭載したまま搭乗員が特攻するという兵器だ。

深夜に作る作業のせいか、静まり返った作業部屋では時々床板がきしむ音がしたり、パシンパシンというラップ音が聞こえたりすることがある。特に、戦艦大和を作っているときは、何人かに見られている気がするし、兵士のフィギュアの時は魂を入れるように作るので、それが動き出すかのように思ったりもする。

しかし、なるべくそんな気配は感じないように作業をしていた。

次の夜は季節外れの台風が来て、窓ガラスに風の轟音が響く。雨が横殴りにたたきつけ、まるで船の中にいるかのようだった。Yさんの部屋は1階だが、少し下にもぐった半地下のような形で、窓は庭の所に出ていて人の膝くらいの高さにある。

誰かが庭にいると足が見える。時々気配を感じて振り向くと、野良猫が歩いていたり。

「コツンコツン」

小石を窓ガラスに当てたような音が響いた。見上げてみると、窓のすぐ近くに立っている黒っぽいズボンを履いた足が見えた。男のもののようだった。

「誰だ?」

時計を見ると夜中の3時。庭に不審者が来ている。どう考えてもお客様じゃない。

2階に上がり、上から庭を見た。特に誰もいない。

朝になって庭を見たが、特にこれという足跡もなかった。確かに見えたんだが。

「ああ、もう考えねえことにしよう。俺がビクビクしてっからいけねえんだ」

そうしてYさんは作業部屋の簡易ベッドで眠ることにした。

「ガラッ」

うとうととしているときだった。窓が開く音がした。しまった、カギをしてなかったな。泥棒が入ってきたな……そうピンときて、何か武器になるものがベッドにないか探していたときだった。体が全くいうことを聞かない。

(オイオイ、何だよ。どうしたんだ俺、脳がイカれちまったか……)

「コツコツコツ」

革靴のような足音が聞こえた。作業部屋を歩き回り、物色しているようだった。

「コツ……コツ」

足音が止まった。ちょうどYさんのベッドの横。背中を向けて寝ているYさんの横に立っているようだ。Yさんは背筋が凍り付いた。

(まずいな、こいつは下手に俺が動いたらナイフで刺してきそうな殺気がある。何か盗られてもいいから、ここは動かないようにして様子を見よう)

すると、その背中の気配の足音はぴたりと止んだ。

Yさんの背中からお腹にかけて何かが通り抜けた。

異様な寒気と耳鳴りを合わせたような空気のような物体が。

(うわあ! なんだこれは?)

お腹からその物体は出ていった。出ていったおへそ近くが痛いくらいだった。

体が動くようになり、さっきの人の気配が無くなったので起き上がった。外から侵入されたはずの窓は少し開いていた。だが、部屋には足跡のようなものはなかった。

(まてよ? 昨日は大嵐だったよな)

Yさんは慌てて庭に出た。土は大雨でぬかるみになっているのに、部屋の窓の下を見ると、何の足跡も残っていなかった。窓から侵入したり、立っていれば必ず足跡はつく。

「こりゃヤベえな、本物が出たな……」

家の電話が鳴り出した。すぐに戻って受話器を取った。例の桜花の依頼主だった。

「順調にできていますか? ところで、桜花に乗せる特攻隊の兵士のフィギュアも欲しいんですよね。作れますか? もちろん幾らかかってもいいですから」

Yさんは少し考えた。この依頼主はどこか不自然だ。もしかしたら、完成する頃に逃げるんじゃないだろうな……こっちはフィギュア作っているせいで、変な目に遭ってんのに。

「わかりました。飛行隊の服の色合いなどが見たいので資料館に行きます。普通はお渡しするまで会いませんが、そこで金額に関しても打ち合わせしましょう。会うのは常磐線の友部駅にしませんか?」

「……いいですよ。しかし、なぜ友部駅ですか?」

「うちから近いのと、海軍の特攻隊の資料館がその近くにあるからですよ」

「筑波海軍航空隊のことですね。わかりました、では友部駅で」

確かにYさんは塗装の時に色合いで悩むことが多かった。昔の資料はほとんどが白黒、モノクロで、実際の色が記されていないのがほとんどなのだ。塗装1つで本物もニセモノになってしまう模型の世界。こだわりが人一倍のYさんは、実物を見るのがモットーなのだ。

その資料館には実物大の軍服が飾ってあると聞いていた。まだ行った事がなかったのだ。

待ち合わせ当日、依頼主はやってきた。Yさんは、それまでに空母『信濃』と『桜花』が完成したので、それも合わせて持って行った。

黒塗りの大きな車から依頼主は現れた。ビシッとしたスーツを着た老紳士で、運転手付きのハイヤー。いかにもお金に余裕がございます、という体だった。

「乗りますか? せっかくだから資料館まで行きましょう。私も見たいものがあるんでね」

「あ、はい。そうですね……ではこれを」

Yさんは少しうろたえながら頭を下げた。何だかぴかーっとした車にまぶしいような紳士のスタイルを見て、異様に恐縮してしまった。Yさんは、いつものようにしわしわのTシャツに迷彩柄のズボンをはいて、紳士と言うには程遠い恰好だったからだ。

Yさんの後部座席に乗り込んだ。隣に紳士が座った。

「筑波海軍航空隊まで行ってくれ」

「かしこまりました」

運転手はまったく無表情の顔つきで、車をスタートさせた。

話を聞くと、依頼主は東京からここまで車で来たそうで、昔は軍事関係の仕事をしていたが、今は隠居生活を送っており、戦時中の事に興味がありコレクションをしているそうだ。

「だけど、驚いたな。この信濃もそうだけど、桜花。これは本当によくできているなあ。このまんまだよ……実に素晴らしい出来だ」

「桜花にも詳しいんですね。僕はこれを作っているとき、変なことが起きたんですよ」

紳士はチラリとYさんの顔を見た。紳士は小顔で、キリっとした眉に凛々しい切れ長の目をしていて、若い時は相当かっこよかっただろうな……という顔つきだった。

「林さん……と呼んで良かったですよね、林さんは若い時、相当モテたんじゃないですか?」

初めて紳士が声を上げて笑った。

「あはは、そうだねえ。モテ期っていうんだろ、今は。それは確かにあったね。どこに行っても女が寄ってくるって時はね。だけど、今はもちろん母ちゃん一筋だよ」

「でしょうなあ。うらやましい。ヘタしたら男にもモテたんじゃないですか?」

一瞬、紳士の表情が固まった。Yさんは余計な事を言ったと思い訂正した。

「今はほら、『BL』って言って、男同士の恋愛漫画なんかも流行ってるんでね。冗談ですよ。林さんだったらついていくっていう部下も多かったんじゃないですかねえ。俺から見てもカッコイイなって思いますもん」

「はは、どうかな。そういう時期もあったかもしれんな」

急に紳士は遠い目をして、しばらく静寂が走った。Yさんもおしゃべり上手というわけじゃないので、そのまま黙っていた。すると、紳士は財布から大きな包みを出してきた。

「これ、信濃と桜花の分、それと特攻隊のフィギュアの分も入ってる。足りないなら言ってください。君の作品はどれよりも本物に近いとマニアでは有名なんだよ。だからお願いしたんだ。会ってみてよくわかった。君なら確かに本物に近いものが作れるはずだ」

Yさんは包みをおもむろに開けてみた。数100万円分の札束だった。

「こんなには頂けませんよ。言った金額でいいですから」

「いや、これは受け取ってくれ。またお願いすると思うから。僕の気持ちだよ」

Yさんは渋々、でも丁重にありがたく受け取り、バッグに詰め込んだ。

「僕の作品を気に入って下さり、ありがとうございます。嬉しいです」

「君はね、自分じゃ気づいてないと思うけど、後ろに色んな人がついているからね」

「うしろに? 僕の支援者ってことですか?」

「まあ、そういうことだね。君がしょっているのは……ああ着いた、ここだね。久しぶりに来たよ。以前はもっと……」

車はこころの医療センターの門を入ると、敷地内の駐車場に止まった。この大きな病院の敷地の中に旧海軍の司令室があった建物が残っている。今は「筑波海軍航空隊記念館」となって、戦時中や特攻隊、ゼロ戦や兵器などの戦時資料が展示されている。映画「永遠の0」でもロケになった場所だ。

ここの2階に上がると、桜花の資料もたくさん飾られていた。「神雷」というハチマキをした実物大の特攻服を着た3人がガラスケースに入っている。

それを見た一瞬、本当に人が立っているような気がして、Yさんはドキっとした。

まじまじと軍服の色、質を観察し写真におさめた。カーキ色と茶色を合わせたような、こげ茶を薄くしたような色、とメモしていたときだった。大空を飛んだ人々の服装は地味だが、胸元の白いマフラーがかっこよく見えた。当時、この格好にあこがれた少年たちがつぎつぎと命を落としていった。Yさんはいつの間にか手を合わせていた。

「ここはね、日本で最初に『特攻』を決めた場所なんだよ。最初は人間爆弾の『桜花』だけのはずだったんだがね。次第にゼロ戦や陸攻一式まで使うようになって突っ込むようになってね。しかも、若い兵たちが命を落とすのが当たり前になってしまった」

背後で声が聞こえた。振り向くと紳士が立っていた。

ただ、何となくだが輪郭がぼやけて見えた。今まで資料を凝視していたから、焦点が合わなくなったかなと目をこすった。

しかし余計周りがぼんやり見えた。傷でも入ったのだろうかと考えた。

「目をこすったらいけない。目は君にとって、とても大事なものだよ」

紳士はそういうと、部屋を出て行った。階段を下りる音がしたので、Yさんは言った。

「今行きます、少し見たら……」

「いいよ、僕は外に出て見て来るから、ゆっくりしていなさい」

「じゃあ、すみません。どうしても見たいのがあるもんで」

それには答えず、紳士の足音は遠ざかっていった。

壁に貼ってあった写真を見てまわった。桜花の隊員の、ある大尉は片目の視力を失い、最後にはこの職に就いたとあった。そして、ふと正面の別の大尉の姿の写真に目が留まった。

『林大尉』の写真だった。特攻する学生や兵士を育てるよう命じられた人であった。特攻隊を育てた人と言ってもいい。

(林……大尉?)

さっきの依頼主の紳士も『林』と名乗った。顔立ちも良く似ていた。キリッとした表情や面差しがとてもよく似ていた。戦後も生きて、数年前に亡くなられた方だった。

「林さん!」

Yさんはつい声を上げた。1階に降りて紳士を探したがいない。再度2階に上がって正面の庭を見たがいない。

ふと気づいて、さっきの資料室のある裏庭が見える方の窓に行った。

紳士が立っていた。裏庭は元々精神病院があり、現在は廃墟となっていて建物内には立ち入ることができない。しかし裏庭には入ることができた。

Yさんは窓から手を振った。紳士は気づかない様子でじっと空を見あげていた。

急いで降りて、裏庭に行った。

しかし彼が立っていた場所には、誰もいなかった。

慌てて「林さん!」と呼びながら敷地内を一周した。表の広い原っぱにもどこにもいなかった。門を出て、昔の地下司令室があった場所、滑走路があった現在の道路、この旧海軍の敷地にあったもの全部を廻った。それはかなりの距離だったが、なぜかYさんは探したい一心で走ったのだ。しかし、どこにもいなかった。

息を切らしたまま、黒塗りのハイヤーを止めた駐車場に戻った。最初からここに行けば良かったのに、どうして俺は気が動転すると、こんな遠回りをするんだろうと反省した。

だが、その駐車場に、さっきの黒いハイヤーは停まっていなかった。もぬけの殻だった。

「しまった、もしかして詐欺か?」

急に不安が襲ってきた。商品だけ渡して逃げられたんじゃないか、そんな気もした。だが、バッグにはさっきもらった札束がちゃんと入っていた。

「じゃあ、何でいなくなったんだ?」

狐に包まれたような気持で資料館の受付の女性に話を聞いた。

「僕がさっき一緒に入ってきた男性、見かけませんでした?」

受付の女性は交代したのか、全く見ていないと言った。Yさんが走り出して外に行ったのだけは見ていたが、敷地内にあるトイレにでも走っていったのかと思ったそうだ。

「黒っぽいスーツを着た、70歳くらいの男性なんです。裏庭では見たんですが」

「裏庭で?」

「はい、立ってたんです。見かけませんでした?」

受付の女性は目を伏せて言った。

「そこはよく出るんです。軍人さんの恰好ではないんですが、人がボーっと立っているのを見た人が何人かいます……別に悪さはしないんですけどね……元は病院ですからね……」

Yさんは言葉を失った。

裏庭の廃墟を眺めた。鉄格子の部屋作りは、いかにも精神病棟の名残がある。

「そうなんですか……軍人さんの霊は出ないんですね」

何となく口走った。受付の女性は言葉を濁し、低い声で言った。

「でも、この敷地にはゼロ戦や紫電改を燃やして埋めたという話はあるんですよね。お年寄りたちが言ってましたから。それを見に来ている人を見たのかもしれません」

「霊が見に来たってことですか」

「いえ、そうとは言ってませんけどね……」

叢と鉄のフェンスに囲まれたこの一帯は、まだ秘密が眠っているということか……そう思うと、Yさんは資料館を後にした。3キロほどの道のりをとぼとぼと歩いて帰った。

家に帰り、紳士の連絡先に電話をした。コールはするが、誰も出ない。

とりつかれたように特攻隊員のフィギュアを作った。2日で仕上がった。1人はゼロ戦に乗ったであろう、電熱服を着たカーキ色の飛行服、1人は大尉の七つボタンの軍服にした。海軍兵学校では七つボタンと決まっており、それは7つの海を表すのだという。これにあこがれて、予科練に応募した少年兵たちもいた。予科練生のボタンの柄は桜と錨であった。2体のフィギュアが出来上がり、また電話をした。

何だか、あの紳士に「できましたよ!」と言いたかったのだ。

しかし、やはり電話は通じなかった。

それから数か月が経ち、作業部屋にこのフィギュアは飾られたままだった。

もう紳士からの電話も注文もなかったが、それ以降、他のお客様からの受注が増えた。ほとんど眠れないくらいに忙しくなり、よく売れた。

疲れ切ると、この2体の特攻隊と海軍服のフィギュアを眺めた。写真の林大尉と老紳士の顔が重なり、たくさんの兵が敬礼している姿が見えるようで、Yさんも満足していた。

この体験を飲み屋で話したが、皆信じない。だがYさんは信じていた。あれは海軍の相当上の将校の霊だったと。もしかしたらお金を運んでくれる大黒様だったかもしれないとも。

しかし、それから顔の筋肉が硬直する病にかかってしまった。病院では神経痛としか言われなかった。仕事が忙しくストレスだろうと診断されたが、一向に治らない。

とはいえ、仕事は断れずに作り続けていた。

完成した巡洋艦の模型を手持ちして、埼玉のお得意様の所に行った。

その人がYさんの顔を見るなり言った。

「Yさん、顔が隠れるくらいたっくさんの旧日本軍の軍人さんの霊が憑いてるよ。何か変なもの作っちゃったんじゃないかね」

Yさんは驚いた。それで、筑波海軍航空隊記念館での不思議な話をした。

「それは道先案内の将校の霊かもしれないけど、その後に何か作らなかったか? 人形とか、魂のこもったもの。君は売ってしまってるから手元にないとは思うけどね。もしあるのなら、勿体ないだろうけどお祓いをして捨てたほうがいい。それに共鳴してたくさんの霊が君にのしかかってる。これ以上のしかかられたら、命の危険があるよ」

Yさんは考えた。自宅にある自分が作った軍関係のもの。

思いつくのは、2体の特攻隊のフィギュアだった。

「確かに注文されてまだ渡せてないのがあります。2体の特攻隊のフィギュアです」

その人はうんうんとうなづいて言った。

「それだ。必ずちゃんとしたところで弔ってもらいなさい。急いだ方がいい」

Yさんは急いで茨城に戻り、作業部屋に戻るとその2体を人形供養の神社に持っていった。神主さんもYさんを見るなり、彼自身に祈祷を行った。

「これは人間の魂が入ってますね」

そう、神主はフィギュア2体を見てぼそりと呟いた。

「しかし、焼くわけにも捨てるわけにもいかない。今回は魂を抜く祈祷をします。しばらくここで弔っておくので、今日は帰りなさい。フィギュアを作る仕事をされているんですか?」

「ええ、旧日本軍の戦艦とか戦闘機、アメリカの空母なんかがほとんどなんですけどね」

神主は深くうなづいた。

「それを作るのに、もしも体調を崩すようなことがあったら、また祈祷に来なさい。こうしたものは多くの人間が亡くなった歴史があるものだから、魂が入ることもあるんでね」

Yさんは驚き、フィギュアをそこに置いて帰った。

それ以来、仕事も少しセーブして受けることにした。

もう一度、彼は例の旧海軍の司令室に行った。

林大尉の厳しい鋭い目つきは変わっていなかった。その前で敬礼した。そして全ての特攻隊の遺留品に敬礼した。

一瞬だが、写真の大尉がうなずいたように見えたそうだ。

今は顔の麻痺の完治はしていないものの、それからは随分病状が良くなったようだ。

「帰りは乗せてくれなかったってのは、今思うと感慨深いよ。大尉は元々行き道しか案内できなかったんだ、戻れなかった兵たちを俺の元に置いてくれと言いたかったんだろうな」

とYさんは語った。

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