しがみつく六人(東京都新宿区歌舞伎町) | コワイハナシ47

しがみつく六人(東京都新宿区歌舞伎町)

新宿区歌舞伎町には、いわゆる事故物件が多い。密集していると言っても過言ではない。私の友人で画家のミッキーさんは、先月(二〇一七年七月)、実家が経営する不動産屋の手伝いで、新宿区歌舞伎町の事故物件を訪れた。

心理的瑕疵物件のうち俗に事故物件と呼ばれるのは、殺人や自殺、火災など人為的な事故による死亡、つまり自然死以外の原因で人が亡くなった不動産物件である。忌き避ひされる傾向があるので、賃貸、分譲を問わず、価格が安く設定される。そのため、幽霊の存在などを信じない人が増えるにつれ、事故物件の人気は上昇し、最近では事故物件を専門に扱う不動産屋まで現れた。

ミッキーさんの実家の会社でも、ここ三ヶ月ほど、あえて事故物件を購入していた。

その日、内覧した歌舞伎町のビルも例外ではなく、飛び降り自殺や殺人など、複数の事件が起きて、何人も亡くなっていた。

目当ての物件は、この建物の四階にある、曰く付きのワンルームマンション。部屋を管理している会社の担当者と二人で一階でエレベーターを待っていると、ミッキーさんたちの真後ろを、背中をかすめて誰かが通り抜けたような気がして、反射的に振り向いたのだが、誰もいない。

変な感じがしたが、とりあえずエレベーターが降りてきたので、件のワンルームへ。

担当者が玄関の鍵を開け、ミッキーさんを中へ招じ入れた。一歩、足を踏み入れようとした瞬間、ミッキーさんは目に見えない透明な壁に突き当たったような、異様な抵抗を感じた。

「でも仕事ですからね。いったん部屋に入ってしまうと、変な感じは消えました」

内覧を終えて、ミッキーさんは実家の不動産屋の事務所に戻り書類仕事を済ませた。

そして夜、さあ自分のうちに帰ろうと思ったときである。

「突然、腰から下をまわり中から押さえつけられたように感じたかと思うと、下半身がまったく動かなくなってしまいました。実家で寝たきりの状態が四日も続き、霊感が強い友人が心配してやって来ました。そして僕の姿を見るなり、『すぐにお祓いして!』と言って霊媒師を紹介してくれたんです。翌日お祓いしてもらったら、途端に動けるようになりましたが、その友人と霊媒師には、僕の下半身に六人の霊がしがみついて地面に引きずり込もうとしているのが見えていたそうです」

もういないはずの人(東京都港区新橋)

画家のミッキーさんの事務所は港区新橋にある。新橋といえばサラリーマンの街。昼夜問わずビジネスマンが闊歩しているイメージで、彼らが利用する居酒屋の類も多い。日本の鉄道発祥の地でもあり、今も新橋駅はJR各駅の乗車人員数ランキングで必ず一〇位以内に入る(JR東日本による全国調査。二〇一六年〈平成二八〉は七位)。

新橋駅の周辺には新旧のビルが混在しながら林立していて、深夜になっても人通りが途絶えない。その只中にミッキーさんはほぼ毎日通っているのだが──。

「今朝、事務所があるビルに入ろうとしたら、もういないはずの人に話しかけられたんです。よく聴き取れませんでしたが、何か言ってスーッと消えていきました」

もういないはずの人、とはどういうことか訊ねたら、「僕の事務所の住所を調べるとわかります」と彼は謎を掛けるような答え方をした。

そこでさっそく調べてみたところ、ある計画殺人事件の存在を知ることになった。

〈一九日午前一一時半ごろ、港区新橋の住宅の敷地内で女性とみられる遺体が見つかりました。遺体は女性の自宅と隣の建物の間で見つかり、一部が白骨化していたということです。今年三月、近所の男性からこの住宅に住む六〇歳の女性の行方がわからなくなっていると警視庁に捜索願が出されていました。警視庁は遺体がこの女性の可能性があるとみて、身元の確認や死因の特定を進めています。現場はJR新橋駅から四〇〇メートルほど南西にあるビルが立ち並ぶ一角です〉(二〇一六年〈平成二八〉一〇月一九日付、TBSニュース)

〈(略)女性の住民票が失踪の一年前に東京都大田区のアパートの一室に移されていたことが分かりました。(略)〉(同一一月二日付、TBSニュース)

〈新橋「大地主女性」が突然の失踪・周辺開発で地価高騰の最中ちらつく〝地面師〟の影〉

(「週刊現代」二〇一六年八月一四日号)

失踪した女性は白骨化した遺体となって、ミッキーさんの事務所があるビルと隣のビルの間の、幅数十センチの隙間に棄てられていたのだという。隙間の両端は扉の付いた鉄の柵さくで塞がれているが、私が見た感じでは簡単に乗り越えられそうだった。

「最後に生きている彼女に会ったのはいつですか?」

「三年ぐらい前のことになると思います。それまでは、ときどきお見掛けしましたよ」

私は最初、ミッキーさんが捜索願を出したのかしらと推理したのだけれど、近所の住人として会えば挨拶ぐらいはしたが、そこまでするほど親しくなかったということだ。

その日、ミッキーさんが事務所のあるビルに入ろうとすると、出入口の横にある死体が棄てられていた隙間の前に、亡くなった女性が忽然と現れて、スーッと近づいてきたのだという。そして彼の真正面に立ち熱心なようすで話しかけてきたが、混線したラジオのようで、何を言っているのか彼にはさっぱり理解できなかった。

やがて、いくら話しかけても伝わらないことを悟ると彼女は悔しそうに口を閉じ、透き通って消えてしまったそうだ。

ミッキーさんはここまで語り終えると、六人の霊にしがみつかれてから「見える」ようになってしまったとボヤいた。

そして私の隣を振り向いて、私には見えない、いないはずの誰かにうなずきかけた。

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