ナースコール──通信設備業者の話一(東京都) | コワイハナシ47

ナースコール──通信設備業者の話一(東京都)

そのメッセージは「ご無沙汰しております。愛読者の大和です」という書き出しで始まった。

実際に、大和さんは、以前、私が官能小説を書いていた頃は新刊が出るたび拙著を読んだ感想を述べてくださっていた。だから愛読者だったことは確かだが、怪談ばかり書くようになってからは連絡が途絶えている。

そこで私は、大和さんは怖い話が苦手なのだろうと思っていた。あるいは官能小説だけのファンだったのだ、と。

しかし、どうやら、どちらも違うかもしれない。今回、寄せられたメッセージを拝読して、ある種の人々にとって怪談は、読む物ではなく、日常体験なのだと思った。

日頃たびたび経験することを、あえて活字で読みたいと思うかどうか。

本作を執筆するにあたり、今年(二〇一七年)八月、初めてSNSで怪奇体験談を一般に募集した。大和さんは、これに応募して複数のエピソードを寄せてくださった。

原文の雰囲気を残しながらリライトしたものを、以下にご紹介する。

「体験談を募集されているということで、大雑把な文章ですが送らせていただきます。

私は二〇年以上、電気通信設備の設計・施工・管理を主に行っております。他に副業も持っていますが、次の話は、本業で経験したことです。

某都立病院でナースコールの設備の改修工事を請け負った際、入院棟の一室の入って右奥のベッドだけが、ナースコールの押しボタンが上手く動作しませんでした。

四床ある部屋でしたが、そのベッドに限っては、押しボタンの機器を交換してもダメ。配線にも異常ナシ。もうお手上げ状態で行き詰まってしまい、私とうちのスタッフは、いったんナースセンターに集まってミーティングすることにいたしました。

しかし、ナースセンターに着いて、中で相談しはじめたら、急に問題のベッドのナースコールが発報(この場合、光と音で報せること)したのです。

設備の改修工事を行っている部屋ですから、当然、入院患者はいません。もう夜で、患者さんやお見舞いに来た人が病院の中をうろうろしている時間でもない。

誰もいないはずなのに、どうして発報したのか……。

スタッフと一緒に部屋に行ってみたら、やはり無人でした。でも、右奥のベッドの押しボタンは押されている。

いったんナースコールを止めて、試しに私が押してみると、今度はちゃんと発報しました。正常に復旧されていたんです。でも、なぜ直ったのかわかりません。

何が起きたのか理解できないまま、私たちは再びナースセンターに集まりました。すると、また、あのベッドからのナースコールがありました。

仕方なく再び飛んでいく。でも、何事もない。だからまたナースセンターに戻る。

こんなことを繰り返していたところ、看護師長さんが騒ぎを聞きつけてやってきました。看護師長さんは、私から説明を聞くと、何か思い当たるふしがあるような表情になりました。

そして私だけを件の病室に連れていくと、たぶん故人だと思われる人の名前を大声で呼んで、『悪戯するのはやめなさい!あなたはもうこの世にいないのよ!』と、とても強い口調で、問題のベッドに向かって語りかけたのです。

すると途端に押しボタンが正常に動作するようになりました。

婦長さんが幽霊を叱る声はナースセンターにも届いていたらしく、戻ったらスタッフ全員、顔を強張らせてましたが、それからは何も起こらず、スムーズに工事を完了することができました」

ちなみに、その某都立病院は一〇年近く前に廃院となった。

建物が解体撤去された病院跡地には、なぜか自然に大きな池が出来た。

池は二〇一二年(平成二四)頃まで観察され、雨水が溜まったことが原因と言われていたが、水溜まりにしては規模が大きすぎるのではないかと近隣住人や暗渠マニアの間で噂になった。

かく言う私も、比較的、近所に住んでいるため、散歩の途中で偶然その池を見つけたことがある。灰色の濁り水をたっぷりと湛えた大穴が地面に穿たれていた。水量が相当ありそうな上に、暗渠になった渋谷川支流の流域の範囲内で、流域には湧水もあることから、川や湧水と関連付けてみたくなった。

しかし水の出所が不明なまま埋め立てられ、現在は別の施設が建っている。

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