ホテルの改修工事──通信設備業者の話二(東京都) | コワイハナシ47

ホテルの改修工事──通信設備業者の話二(東京都)

引き続き大和さんの話だ。

「古いホテルの改修工事は、不思議な出来事に遭遇する率が高いように思います。

あるとき、都内の老舗ホテルから、客室を改修する仕事を受注しました。

歴史のある有名なホテルだということは知っていましたが、行ったことはありませんでした。作業員を連れて訪れてみたら、思っていた以上に古い建物でした。

着いて早々に『なんか薄気味悪いホテルですね、出たりして』と言う作業員がいて、私は笑いながら『そんなことないよ』とたしなめたんですが、最上階の奥から一つ手前の一室だけは、なんとも言えない異常な雰囲気を感じました。

ホテルからのオーダーで、宿泊施設の営業をなるべく続けながら工事をすることになっていたので、二フロアずつ閉めて作業を進めました。上下する二つの階をクローズドにして工事して、そこが終わると、また別の上下する二フロアを……とやっていくうちに、私がなんとなく違和感を覚えた最上階の部屋に入らないわけにいかなくなりました。

やはり何か変な感じがしましたが、気にしないことにして作業を指示して、終わらせることが出来ました。

すると部屋から廊下に出た途端、大きな鉄扉が私を目掛けて倒れてきました。咄嗟に左手で払いのけて最悪の事態は免れたものの、頭を直撃されたら命がなかったと思います。ホテルの共有部分に使われる防火機能を備えた鉄扉は、最近は軽量タイプの商品も出ていますが、旧式のものになると二〇〇キロから四〇〇キロも重量があるのです。

重い扉が倒れた大きな物音に驚いて、同じフロアの各部屋に散らばって作業していた作業員たちが集まってきました。私は鉄扉をはねのけた左手を抱えてうずくまっていました。扉に当たったところが腫れあがってきて、激痛で声も出ない状態でした。

私の上司にあたる監督員も駆けつけてきました。監督員は廊下の床に倒れている鉄扉と、扉が嵌まっていたドア枠を点検すると、怒りの表情でこう言いました。

『おかしい!これが勝手に倒れるわけがない!』

誰かが蝶番を外したに違いないというわけです。私も確認したのですが、枠の上下二箇所に蝶番の金具が付いていて、一つの金具につき複数あるビスを工具を用いて全部外してから、少し上に持ち上げなければ、蝶番から外せない仕組みになっていました。

人を殺せる重量があるので、滅多なことでは扉が外れないように出来ていたのです。

しかし、廊下は改修工事範囲外でしたから、私を含めて誰も何も触っていませんでした。また、この鉄扉は、腕力のある大の男が二、三人がかりで、補助的な道具を適宜使いながらやらなければ安全に取り外すことは不可能で、そんな目立つ作業をしていたら絶対に誰か気がつきます。

ありえないことが起きたとわかって、みんな怖くなってしまいました。

『気持ちわるい!』と言う者が多かったと思います。

そのうち監督員が気を取り直して、鉄扉を元通りにしようと言いだしました。

ところが蝶番のビスがドア枠の近くには見当たりませんでした。

ビス探しが始まり、しばらくして見つかったのですが……。

鉄扉の蝶番のビスは全部、私がさっきまでいた、不気味な感じがしていたあの部屋の窓の下にバラバラと転がっていたんです。

部屋で作業していたときには、絶対にそんなものはありませんでした。そして、鉄扉が倒れてきたのは私が部屋を出た直後です。

……あまりの不気味さに、その日はそれからみんなほとんど口をきかず、黙々と作業をしていました。

私は現場を抜けて病院に行くことになったのですが、帰り支度をする一〇分足らずの間に、鉄扉は元通りに直っていました。みんな必死で作業をしたのでしょう。

全員、何も見なかったことにしたかったんだと思います」

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