「帰れ」──通信設備業者の話三(栃木県) | コワイハナシ47

「帰れ」──通信設備業者の話三(栃木県)

「栃木県内のとあるホテルで、わりと最近体験した出来事です。

工期の短い改修工事で日程調整がキツい中、現地調査をしなければならず、夜のうちに調査をして、翌朝から工事を開始するというハードスケジュールになりました。

それだけでもアレですけど、事前に知らされていたのはホテル名だけでしたから、インターネットで検索したら、ブルーになるような記事がいくつか出てきて……。

◯◯◯号室に幽霊が出るというのです。その◯◯◯号室には、壁に奇怪な文字が浮かびあがるという噂もありました。

しかも工事期間中はホテルは完全休業して無人になっていて、現地調査は夜にホテル側の担当者と私の二人だけで行うことが決まっていました。東京近郊の会社の事務所を夕方に出発して、夜一〇時ぐらいにホテルに到着し、担当者と落ち合ったのですが、控えめに言っても気乗りはしませんでした。

誰もいない薄暗いホテルの館内を担当者と連れだって歩きまわりながら、仕事のためと自分に言い聞かせていました。

設備の状態や配線の写真を撮り、ホテルに隣接した現場事務所に戻ったときには、すでに夜中の一二時を過ぎていました。それからパソコンに、撮影した写真データを移したのですが、例の◯◯◯号室の周辺で撮った写真のデータだけが消えてしまってました。

確かに撮ったはずなのに。しかし仕方ありませんから、再び担当者と二人でホテルに戻り、◯◯◯号室に直行しました。さっさと済ませたい一心でした。

でも、部屋に着くとすぐ、担当者がびっくりした顔で私を振り向いたのです。

『今、〝帰れ〟って言った?』

私は首を横に振って否定しました。

『えっ、だけど聞こえたよ。〝帰れ〟って』

私は「言ってませんよ』と応えて、部屋の写真を撮ろうとしたのですが……。

『帰れ』

今度は私にも聞こえました。男のものとも女のものともつかない、しわがれた声で、はっきりと『帰れ』と。

震えあがって、担当者と現場事務所に駆け戻ると、すぐに、今回の仕事をキャンセルしたい旨のメールを会社に送信しました。

しかし、当該のホテルは弊社を長く頼りにされてる大切なお客様ゆえ、心霊現象については極秘にするように、と口止めされただけでした。他の社員と代わってもらうこともできませんでした。

翌朝から作業員たちが合流して内装工事が始まると、その他の部分は順調に工事が進展したのですが、やがて◯◯◯号室とその周囲だけ進行の遅れが目立つようになりました。

監督する立場で作業員たちのようすを見ていた感じでは、◯◯◯号室周辺を任された作業員がすぐに仕事を嫌がるようになり、誰かと代わると新しく交代した作業員も嫌がるようになる、この繰り返しで、作業が遅れているようでした。

でも工期は迫ってきます。突貫作業で仕上げなければ、と焦っていると、作業員から、私の立ち会いのもとでなければ◯◯◯号室には入らないと宣言されてしまいました。

仕方なく立ち会うことにして、最初のうちは問題なく作業が進みました。

いよいよ配線も完成し、無事に通電して、ブレストを残すのみになりました。

電話回線を改修工事した際には、ブレストといってイヤホンを着けて行う通話試験をする必要があるのです。このブレストを作業員に行わせたところ、ノイズが入って相手の声がクリアに聞こえないと言います。私もイヤホンを着けて試してみたら、やはり相手の声にノイズが乗っている。原因を探ってもわからず、次第に嫌な感じがしてきました。

そのとき小用で作業員が部屋を出て、私が一人で◯◯◯号室に取り残されてしまいました。するとブレストのイヤホンから、調査のときに聞いたあの声が。

『帰れ』

パニックになりそうでした。でも、とにかく時間がありません。作業員が戻ってくると、何食わぬ顔でイヤホンを渡し、ブレストを再開しました。すると、すぐに『悪戯いたずらしないでくださいよぅ』と作業員に言われたのですが、彼に対しては、私がふざけて怖がらせようとしたということで押し通して、ブレストを完了してしまいました。

だから、あのホテルの◯◯◯号室は、今でもそのまんまになっています」

大和さんを取材してから、件の栃木県のホテルのホームページを確認した。

今年(二〇一七年)リニューアルオープンしたことを宣伝していた。リニューアルオープン記念として、綺麗になった客室に特別割引料金で宿泊できるそうだ。

洗練された室内の写真とリーズナブルな宿泊料金を見て、こんな話を聞かなければよかったと私は少し後悔している。

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