日立の一本杉(茨城県日立市) | コワイハナシ47

日立の一本杉(茨城県日立市)

日立鉱山の有名な煙突の辺りを過ぎて、国道36号線を道なりに本山の方へ進むと、有名な一本杉が見えて来る。ここは地図も二股に書いてあるように、道路のど真ん中に立っている。カーブと坂道の途中にあるので、進行方向左が登り車線で、右が下り車線になっているので、車の往来が激しい時は事故が多発しそうな場所だ。

一本杉の左側にガードレールがある。今は左側が藪と崖のように見えるが、昔は鉱山関係者の子供たちが通っていた本山小学校があり、劇場があるなど賑やかな場所でもあった。

その奥に本山キャンプ場がある。そこへ千草さんが、小学校の友達と家族で遊びに行った時のことだった。千草さんは小学校5年生で、どちらかというとインドア派だったので、キャンプ場や野外活動が好きではなかった。友達は元気ではしゃぎまわっていた。

「夜になったら、あの一本杉、見にいくっぺ」

1人の男子が言い出した。国道まで歩くのに遠くはないが、車通りが激しいし、夜は真っ暗になるので、親や先生には行かないよう止められていた。しかし、小学生の好奇心はそんなものでは止められない。親たちが寝静まった夜中に抜け出して行こう、となった。

「みんな集まんねえな」

夜1時を回ったころだった。

みんな寝てしまって、起きていたのが千草さんと言い出しっぺの男子だけだった。もう待っても集まりそうにもないので、2人で見に行く事にした。

2人は特別仲が良い訳ではなかった。学校では口も聞いたことがなかった。

それが、興奮と恐怖からか、家族や学校の事など色んな話をした。千草さんは異性と話すのが得意ではなかったが、この男子とは話が合った。彼は両親が生まれてすぐ離婚して、母子家庭の1人っ子だった。キャンプにも親が来ていなかったので、仕事が忙しいのだろう。彼は夜、自由に出歩いているようで、箱入り娘だった千草さんにはとてもうらやましい話だった。

「いつも夜は1人で出歩いてんの?」

「んだな。家にいるのおっかなくってさあ。押し入れにいるんだ」

「押入れに隠れてんの……家にさ幽霊でも出んの?」

「そんなもんだな。隣の部屋から変な声が聞こえっから、ヘッドフォン付けて寝てる。最近はそれでも変なのが家ん中ウロウロしてっから、外に出てる。冬は寒いっぺ」

「おっかねえな。お祓いしてもらったらどうだ? お母さんは大丈夫なんけえ」

「お母さんは……知らねえ。慣れてんじゃねえか」

どうやら、その男子の家は幽霊が出るようだ。こんな人と一緒じゃ幽霊を見てしまうっぺ……と真っ暗な林を歩きながら、千草さんは足どりが重くなっていた。

国道の手前まで来ると車の往来や道明かりが見えたので、千草さんはほっとした。幹に大きなしめ縄をして立札が立っている一本杉が見えた。

「おい、あれなんだ?」

男子がぐいっと千草さんの腕を掴んだ。彼が指さす方を見上げた。

杉の木の上ににユラユラ揺れる白いものがある。千草さんは視力が0.3しかなく、はっきり見えない。ただ、その形はすこしずつしっかり見えてきた。

「人だ、人が浮いてる……」

千草さんにも見えた。杉のてっぺんの方に人が浮いている。男か女かわからないけれど、振り子のようにそれは揺れていた。

「下にもいる!」

杉の木のたもとに、3人くらいの人が立っている。現代人の恰好でなく、着物のような服装だった。だが遠くて見えない。もうすこし視力があれば……。

「よく見えねえよ、杉を見に来た人なんじゃねえけ?」

「んだな。けども……」

じっと男子はその人影を見ていた。千草さんは叫びたいくらい怖かったが、叫んだらその3人が気づいて、追っかけてくるんじゃねえか……と、怖かった。とにかくキャンプ場に戻りたい一心で平静を保った。

「おっかねえよ、帰ろう。悪さする連中かもしんねえし」

「んだな」

ところが、男子と言うのは衝動的に何をするのかわからない。繋いでいた手を振り払って、国道を走り、一本杉にキックをしたのだ。

「な、何すんだ……!?」

「こんくらいしねえと、武勇伝にならねっぺ!」

男子は杉のたもとでニカニカ笑っていた。

3人の人影はもう見えなくなっていた。男子に襲い掛かるかと思ったが、シュっと消えてしまった。杉の上の白いものも見えなくなった。でも千草さんの周りに何か変な空気が集まって、ものすごい寒気がした。絶対祟りがきてるっぺ、しかも私に……と思った。

「帰ろうって!」

千草さんは叫ぶと、男子はしぶしぶ戻ってきた。興奮と激しい連続キックのせいか、かなり汗をかいていた。

「俺、やっちまったなあ。けど、幽霊もお前と見れてよかったよ」

「何で良いのさ? 私はおっかねえよ」

男子がじっと千草さんの目を見て言った。

「俺もお前も見たって言えば、嘘つきって言われなくて済むけえ」

そして男子は笑いながら、スッキリした顔をしていた。千草さんは全く逆の重い足取りでキャンプ場に戻った。戻ると、自分たちのテントの前に親が集まっていた。

「どこ行ってたんだ!」

そのあとは叱られて散々だった。母親には、帰り道にこう言われた。

「まさか、あの子と変な事してねえよな? その……男と女のことは学校で教わったっぺ? 真っ暗なとこで2人きりで何時間もとなると、いろいろ言うお母さんもいるんだからよ。気をつけねえと……」

「そんなん、するわけねえよ! あの子とは幽霊みたいなの見ただけだっぺ」

母親はぎょっとした顔で言った。

「幽霊? どんな幽霊だ?」

「一本杉の上にひらひら舞ってるの見た。人間かどうかもわかんねえけど。あと、たもとに3人くれえの着物着た男だ」

「お前、そりゃあ……まずいな。あの杉で幽霊見ると、ろくなことねえって。何か悪さしてねえよな? あの木蹴ったり、車逆走させたりすっと、命落とすって言われてる」

千草さんはドキっとして、とっさに嘘をついた。

「えっ……ううん。何も悪さしてねえ……よ」

「本当だな。絶対に悪さしてねえな? 死んじまうんだからな」

千草さんはゾッとした。あの男子が重いっきり幹にキックしてたことなんか口が裂けても言えねえ。そのまま黙って、家に着くまで昏々と眠った。

その夜から39度の熱が出て、1週間くらい熱が引かなかった。もしかしたら祟りなのかと母親が呼んだのか、拝み屋さんがやってきて、お祓いをしてお札を貼っていった。

「……この子はいずれ治っぺ。けどなあ、男の子は救えねえな……」

寝ているときに廊下からヒソヒソ声が聞こえた。男の子って……あの子? 千草さんはもっと耳をすまそうとして聞いたが、それ以上は聞こえなかった。

(救えねえって、何の話だ……?」

その後、下腹部にひどい痛みを感じた。

トイレにかけこんでわかった。千草さんに初潮が来たのだ。母親に報告するととても喜び、お赤飯にケーキが出た。父親に知られるのが恥ずかしかったが、両親はとても喜んでくれた。千草さんは少し大人になった気分だった。

2学期が始まり、始業式で校長先生のお話があった。

「残念ながら、夏休みの間に交通事故で亡くなられた生徒がいます」

児童たちがザワついた。誰? 誰? と。

「5年3組の○○君です。彼は夜中にコンビニエンスストアの前にいたところ、駐車場で車にはねられたそうです……」

千草さんは真っ青になって倒れた。あのキャンプ場で一緒だった男子だった。自分にも祟りが来る。すぐに保健室に運ばれたが、恐怖で全身の震えが止まらなくなった。

クラスでも人気者だった男子の死に、みんな泣き崩れた。

ただ、事故の原因や、お葬式に関することなどは詳しく聞けなかった。PTAで話さないよう協定が結ばれてるかのように、親たちも口を閉ざしていた。

卒業して何年か経った。成人式の後の同窓会で、その男子の事故死の話題が出た。

「○○君も、来れたらよかったのにね」

「あの子さ……、本当は親に殺されてたんだって」

「えっ? 親に?」

「継父ってやつ。お母さんの再婚相手だって。だけど、お母さんも見て見ぬふりしてたんだって。相当暴力振るわれてたらしいんだあ。夜は外に追い出されてたみたい」

あの男子の家には母親の内縁の夫が住むようになり、毎晩、男子の母親と隣の部屋でHをする声が響くので、嫌になって夜に外を徘徊するようになっていたのだ。そのうち家に戻ってくるな、と半ば追い出されるように鍵を締められていたようだ。

夏休みのキャンプの後、その内縁の夫(父親)と男子は口論になり、焼酎びんで殴られた。その後男子が動かなくなったので、車に乗せられコンビニの前で捨て、さらに轢いたそうだ。

暴力でできた体中にあるアザが見つからないように、事故を装ったのだ。

交通事故でなく、義理の父親が殺人犯だった。

その子を殺した動機はたったこれだけだった。

「弁当買う金が欲しいというから渡したら、お菓子を買ってやがった。嘘つきやがって」

義理の子供を虐待し続け、轢いた。その内縁の父親は、子供の霊が見えると発狂して自首した。死刑宣告を受けた。他にも前科があった男だったそうだ。

死刑はそろそろ執行されたであろう。男子の母親だけが残された。

そして、その話を母親にした。すると意外な答えが返ってきた。

「お前もあの男の子と一緒だったから、命を取られるかと心配したんだ。だけども、女の子は大丈夫だって拝み屋さんが言ったけえ」

「何で、女の子は大丈夫なんだ?」

話を聞くとこうだった。

同じ霊を見た千草さんに何も起きなかったのは、女の子は生理が始まると、霊を見なくなり霊力が下がるからだと、拝み屋さんは言ったのだそうだ。男の子はそれがないので、霊力が高い男の子は大人になるまで霊障を受けることも多いそうだ。

「あの時、何で一本杉にキックしたのか、今なら気持ちわかります。家にいる幽霊みたいな男を退治したかったんでしょうね」

千草さんは涙ぐんだ目で話した。

日立鉱山の一本杉は元々は群生した杉林が、伐採などから3本になっていた。その3本のうち残ったのがあの一本杉である。

道の真ん中にあるので何度も切り倒そうとしたが、その担当者や関係者が不審な死を遂げるので、切るのをやめた。地図も二股に分かれた道路として載っている。

あの一本杉の周りの道路では事故も多発していた。だが神木と祀ってからは事故は減ったそうだ。

シェアする

フォローする