音信不通 ジェイソン村(茨城県牛久市) | コワイハナシ47

音信不通 ジェイソン村(茨城県牛久市)

廃墟の企画雑誌の取材で、Sさんが「ジェイソン村」と呼ばれる廃墟に行った時のことだ。当時付き合っていた彼はカメラマンで、Fさんと言った。Fさんは特別怖がりでもなかったので、平然と廃墟の中を撮って廻り、Sさんも頼もしく思っていた。

ここは元々、「Nプレス工業」という企業があった場所だった。そのため倉庫などがあるわけだが、噂が噂を呼んで、建物が自殺の館、少女の館、画家の館、作業場、倉庫群などと呼ばれるようになった。それに、壁が剥がれ落ちたような悲惨な状態の住宅に、つい最近まで人が住んで料理を作っていたように散乱した鍋や、洋服なども吊るしてあるのだ。一瞬幽霊? と思われなくもない。ただ、昼間に行くので幽霊が見えたわけでもなかったが、Sさんは念のため清めの塩は持参していた。

Fさんにも振りかけようとしたが、迷信じみたことはしないと鼻で笑っていた。淡々としていて現実的な男性だった。そこもSさんが惹かれるところでもある。ヒイヒイ怖がる編集部の男性社員よりずっと彼の方が頼りになった。

「これは誰かここに住んでたんじゃないかな、ホームレスとか色々……」

「でも電気も水もないじゃない」

「それが、外にあるツマミ1つをひねれば使えるようになったり、わかってるやつは廃墟を住み家にするのは簡単なんだよ」

「へえ〜すごい、何でも知ってるのね」

SさんはFさんの何でも詳しいところが好きだった。

その日はつくば市のFさんのアパートに泊まる事になった。撮影で夜遅くなったので、2人ともすぐに布団に入った。眠り始めた頃だった。どうもFさんの様子がおかしい。ずっと寝言を言って苦しそうだ。

朝方、彼が飛び起きた。それでSさんも起きた。起き抜けに彼が言う。

「お前、今何か言ったよな?」

普段は使わないような荒々しい言い方に、Sさんはびっくりした。

「何も……?」

「『お風呂行ってくるね』って、今言ったよな!?」

「いや……言ってないよ。違う女の間違いじゃない? あ、冗談だよ」

「違う女……? あ、お前、首の傷! どうなった……?」

「何、首の傷って?」

「お前、さっきまで首に傷があっただろ!」

Fさんは明らかに気が動転している。話を聞くと、夜の間中、Fさんの周りを歩き回る足音で眠れなかったという。数人が歩き回るのだ。

隣で寝ているSさんの方を向くと、安心して眠れそうになった。だが次の瞬間、Sさんの顔が違う女の顔に変わった。その女は白目を剥いて首に大きな傷があり、口から血が流れていた。Fさんは声を上げようとしたが声が出ない。気を失うように眠ってしまったそうだ。

この後、彼とはしばらく音信不通になった。どうも精神的に調子が悪くなってしまったし、仕事もままならなく引きこもってしまっているという。ジェイソン村の写真は送ってくれたが、編集部の皆が首をかしげていた。

「これ、Fさんにしちゃ不出来すぎませんかね」

Fさんの写真は、軸が斜めになっていたり、ピンボケしていたりしていた。

様子が変だったのはこの時からだったのかもしれない。

ジェイソン村での噂はこう言われている。

この家で昔、母親が家族を惨殺するという、信じられない事件があった。まず、1人娘が1階の廊下で首を絞められて殺され、父親が2階の寝室で金属バットでメッタ打ちにされて殺された。最後に、犯人である母親が自分で首に包丁を刺して死んだそうだ。

しかし、その事件の事実は確証されてはいない。

しばらくして、ある女性からSさんに電話がかかってきた。Fの元彼女という女性だった。話がしたいと言うので会った。Sさんは今Fさんとは音信不通で、彼が自分と一緒にいるときに霊を見たという話を伝えた。すると

「それ、首に傷がある女の霊ですよね?」

Sさんはびっくりした。ジェイソン村の話はしていないからだ。

「その霊、彼の昔の彼女なんです。嫉妬深くて頭がおかしくなって自分で首を斬りつけて彼の目の前で死んだそうですよ。Fさんはいつもそれが頭から離れなくて、彼女ができるたびにその霊に追いかけられるそうです。あなたも彼と音信不通になったでしょ? 見ちゃうと、この彼女とはやっていけないって思うらしいんです。……私もそうなんですよ。音信不通です」

「……そうだったんですね……何でその彼女は自殺したんでしょうか……嫉妬深いっていうと、彼の女癖が悪かったとか……」

「そうね。Fの話では彼はセックス依存症で、彼女の娘にまで手を出したらしいんですよね。病気だからどうしようもないなんて笑ってましたけど……複数の女の人に同時に手を出せる性分なんですって」

「依存症……全然知らなかった。その娘さんはどうされたんですか?」

「……母親に斧で頭砕かれて殺されたとか。それで彼女も首を切って自殺。噂ですよ……だけど、嫉妬深い女って生きてても幸薄いですよね? 男は面倒な女って、基本嫌いよね」

そう言うと、その彼女は長い髪を掻き上げた。白い首筋にみみず腫れのような深そうな傷があった。

「あなたは……」

Sさんがぎょっとして声を漏らすと、彼女がニヤリと笑った。

女の顔がぐにょんと曲がった。白目をむいて90度に首が折れ曲がった。

Sさんは逃げるように店を出た。

目の前の女が、自分の首に噛みついたような衝撃を感じながら。

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