これはホラー映画制作会社のWさんが体験した話だ。
茨城でのロケ仕事が多かったので、友人の住む水戸市内のとある家を間借りすることになった。そこは住宅街の中にお寺があり、お墓の裏手に位置する2階建ての古い家だった。
南側の窓からは、摩天楼のようにお墓が立ち並ぶ。
「ここ、出るんじゃねえ?」
Wさんはそのお墓の雰囲気がどうも気になった。きれいな墓石が少ないのだ。溶けたような崩れた古い墓石に、卒塔婆が大量に立てかけてあった。
こういうお墓は無縁仏の類が多い上、あまり整備されていないのが気になった。
「俺は小さいときから住んでるから何も感じねえな。時々金縛りにあうけど、何もしなきゃ悪さしねえよ。お寺さんがちゃんと供養してるしなあ」
「供養ったってなあ。それに完全に霊の通り道じゃねえか。カーテン閉めときゃいいか」
すると友人は困った顔をした。
「カーテンなあ。親に言われてんだけど、閉め切るとダメだっていうんだよ。空気がこもって逃げ場が無くなんだって……その、邪気っていうんかなあ」
「まあ、確かにな。空気は時々入れ替えするよ」
友人に鍵を預かり、墓の見える2階の南側の部屋で寝ることになった。
2、3日友人が出張でいないので、その間の留守も預かることになったのだが……。
深夜1時くらいだった。
1階のリビングで原稿を書いていたら、2階を歩き回るような音が聞こえた。
ミシッミシッ……ミシッミシッ……
(怖いな……やっぱり2階は霊の通り道になってる。1階でこのまま寝よう)
2階に明らかに幽霊がいるのに、眠りに行くのは怖い。リビングに布団を持ってきて寝ることにした。1階の押し入れにあると言われていた布団を取りに行った。
その畳の部屋は完全にカーテンが引いてあって閉め切られていた。雨が続いたせいか、かび臭い部屋だった。電気を付けてみた。空気がこもっていて妙な雰囲気だった。
「失礼します……って、居るわけないか」
と、押入れの戸を開けた。
「うわあああ!」
Wさんは後ろに卒倒した。
押入れの布団の上に、生首がズラリと並んでいた。
落ち武者のように髪が伸びきって、口から血が流れているのが20首くらいあった。
「マジか……この家……」
Wさんは、すぐにこの家を出て水戸のホテルに泊まる事にした。
「おい、お前の家の和室の押し入れ……出たよ、生首いっぱいいてさ……」
友人に電話をしたが、彼は平然と言った。
「やっぱ、出た? 俺はわかんないんだけど、前に泊まった人もそういうんだよな。閉め切るとよくないんだよ。お墓の霊の通り道だからなあ。抜けなかったんだろ」
「そういう問題じゃねえよ。お前の家自体が元墓場なんじゃねえの? 住んでるよ、完全に」
「……住んでる? マジか」
Wさんが後で調べたらこうだった。
向かいのお寺の住職が体調を崩しており、境内の管理ができていなかったそうだ。そして、その寺は、昔の刑場の近くにあったので、罪人の晒し首を弔うために埋葬していたそうだ。
水戸市には刑場が多く、晒し首になったものはそのまま野捨てとなっていたが、供養の為に親族が取って持ち込む場合も多かった。
また、行き倒れの遺体などはお寺で供養するため、そこに穴を掘って埋葬することもあった。古い無縁仏の墓があるところは、そういった類の人の供養をしているところがある。
Wさんの友人はそのお寺の由縁も、この土地の事も何も聞かされず育ったようだった。
「慣れって怖いな、でも知らねえってのが本当は幸せなのかもな」
そうWさんは話してくれた。