事件『凶悪』(茨城県笠間市) | コワイハナシ47

事件『凶悪』(茨城県笠間市)

鈴木さんは霊能者の先生に付き添い、事件があったと思われる場所まで車を運転していた。とある有名な事件を調査していたのだ。

金目当てに殺人、という話は多いが、このケースは異常でアルコール中毒による事故死に見せかける為に、まずその土地の持ち主を拉致し、使用人という名目で同居し、毎晩酒を大量に飲ませ、最後は泥酔のまま山道に埋めたというのだ。鬼畜の所業としか思えないが、こうした殺人をさらに何度も繰り返した人間がいるのだ。

霊力を借りて、その現場に行こうとしていた。雨がしょぼしょぼと降る日で車の通りは少なく、現場周辺は、山を切り開いたような場所で住宅が点々とあるようなところだった。

辺りを見回すと木が生い茂り、穴を掘ったとしても、どこに事件現場があるかなんて見当がつかない。重機を使ってでも掘り下げないと無理だ。

「いや、どうもそこには感じないんだよ。さっきの駐車場まで戻ろう。まだ怨念がありそうなんだよな。この辺りまで届いてくる」

「駐車場ですか……。あそこはアスファルトだから掘ったりできないから、運が悪いですが……先生はそう感じますか?」

「うむ。この先がおかしなのがいる。2、3人の霊体がこの周りで待っている。1人はものすごくひどい殺され方をして、今も弔ってもらえてない。自分が死んだ場所を伝えようとしてるんだろうが、ここが事件があった場所かもしれん」

駐車した場所に着くと、鈴木さんも何だかさっきよりずっと体調が悪くなっていた。吐き気がして何か獣のような臭いが立ち込める。先生も眉間にしわを寄せている。

その時、すれ違った男性がいた。年の頃は7、80歳くらいだろうか。

浮浪者のような恰好だったので、この人からそういう臭いがするのかと思い、あまりじろじろ見ずに通り過ぎた。よたよたと歩いて鈴木さんの左横を通り抜けた。異臭がきつくなった。ホームレスにしてもひどい臭いだ。いや、死臭か……?

「おい、今のがアレだな。鈴木君、振り向いてみろ!」

先生に肩を叩かれ、はっとして振り向いた。

だが、そのおじいさんはもういなかった。

「いない! 今通ったばかりなのに……」

「今のがそれだよ。地縛霊みたいに長い間ここに住みついてるな」

鈴木さんは肩から下がぞくっとした。悪寒が止まらなくなって眩暈めまいを起こした。

「ここに怨念がある。必ず呪って殺した相手を見つけるはずだ。それくらいの怨念がある。さっきのじいさんは殺されている。しかもひどい殺され方。この辺りを掘るといい」

先生はその言葉を繰り返していた。

その帰り道のことだった。雨は相変わらず降っていた。高速道路のインターから入りしばらく運転していると、交通事故による渋滞で、車が完全にストップした。

「鈴木君、あの先……見えるよね。座っているのが……」

先生が指さした先を見た。左の道のわきに頭をうなだれ、正座で座っているおじいさんが見えた。さっきすれ違った顔の色黒いおじいさんだろうか?

「あ、あれって……」

渋滞とはいえ、車の列は流れていく。通り過ぎながらじっと見ていると、そのお爺さんは顔を上げた。その顔は目がなく空洞で口も耳まで大きく開いた、骸骨に肉片がついたような顔だった。首から下は肉が腐ってただれ、服も局部を隠す程度で、まるでミイラだった。さっき見たお爺さんとはまた違うようだった。堪らず声を上げた。

「うわああ!」

「落ち着け!」

先生は鈴木さんの腕をしっかり掴み、呪文のような言葉をつぶやいた。

「あれは埋められた霊だ。おおかた生き埋めにされたんだろうな。身と土が一緒になっている。怨霊っていうのは、死んだときのまま現れるんだ」

先生は淡々と言った。

事故渋滞の元凶の事故現場の横をすり抜けた。

高級車が半分くらいの大きさに縮み、運転席から血だらけの腕だけが見えた。どうやら左の壁に激突したようだ。救急隊員が囲んでいた。

後でニュースを見て驚いた。

その事故の現場は、警察が殺人容疑で追っていた男が事故死した場所だった。殺害した老人を生き埋めにしたと供述したことから、事件がまた明るみに出た矢先だったのだ。この男は追突された後、中央分離帯までフラフラと歩き、そこで複数台の車にはねられて死んだ。これから事件の全容がわかるという時だった。

鈴木さんは思った。あのときの高速道路で見た正座した男が、生き埋めにした老人の霊で、自分を殺した男を呪い殺しに来たが、さらに自分の埋められた場所を伝えに来ていたのではないだろうかと。

「早く俺を見つけてくれ」

そんなメッセージが鈴木さんの頭によぎった。

そして共謀して殺した男たちは捕まった。1人は死刑、1人は無期懲役。だが遺体はどこを掘っても見つからなかった。もしかすると鈴木さんが見た高速道路の近くに埋められているのではないかと思ったが、証拠にもならないので警察には言わなかった。

この事件以降、死刑囚の証言で他の複数の殺人事件が明るみになり本にもなった。金の為に起こした事件が、また金稼ぎになるのも皮肉なものだ。

鈴木さんは言う。殺された霊と怨念だけは必ず現場に残っているということを。たとえ遺体が掘り出され焼却され、人間の残骸は残らなくても。

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