天国列車(茨城県水戸市) | コワイハナシ47

天国列車(茨城県水戸市)

昭和30年代の怪奇談を紹介する。常磐線では車内で酒盛りする人が多かった。今ほど飲酒がうるさくなかった時代の話だ。

東京・上野から水戸まで2時間ほどかかるので、その間に居酒屋にいったような気分になりたいのだろう。吊革を握って立っているサラリーマンや労働者も、手に酒瓶などを持っていた。もちろん治安も悪かったようだ。

Mさんも、いつものように酒瓶を片手につまみを食べていた。

上野からしばらく行った頃、酔いが回って眠気がさしてきた。ちょうど牛久を過ぎたあたりだろうか。

どれくらい経っただろうか。目が覚め、ガバッと起きた。

「ああ、しまった、寝過ごしてまった!」

と窓の外を見ると妙に明るい。

上野を出た頃には確か17時半。夕方の日差しだった。今は昼間!?

身につけていた懐中時計を見ると、14時過ぎだ。

しかも酒瓶はなくなって、手にしてるのはお茶と饅頭になっていた。

「何だ? 俺、狸にでもばかされてんのか? まさかこのお茶、狸のしょんべんじゃねえよな? おえ、気持ちわりいなあ!」

とにかく急いで降りてみたら、土浦駅だった。

「まさか、あのまま寝て、次の日になって起きたんじゃねえよな?」

と、降りた列車をもういちど振り返ってみた。すると……。

車内の客はみんな白装束。同じ白い着物を着ていて、青白い顔をしている。そして降りたMさんをじっと睨んでいる。

「ひえええ!!」

ついMさんは悲鳴をあげた。こりゃあ、普通の列車じゃねえ! とんでもねえとこに乗ってたっぺ!

すると列車の端から車掌が降りて、Mさんめがけて走ってくる!

(これに捕まっちゃならね!)

と、ホームの階段を夢中で駆け上がった。

すると、見覚えのある場所。そう、いつもの水戸の駅だった。

時間は夜19時半。普通に上野を出て水戸までかかる時間だ。もちろん外は夜。

(なんだ夢か。しかし助かった、夢かあ)

ほっとして改札を出た。

(こんなに水戸駅が愛おしい日もねえなあ……祝杯すっか)

飲み直すことを考えていたら、知り合いの飲み仲間に会った。ちょうどいいので駅前の居酒屋で飲みながら、さっき起きたことの顛末を少し大げさに話した。

「俺は天国列車に乗っちまったかと思ったっぺ!」

知り合いは目を白黒させて聞いていた。

「つまり、夢見てたってことかい? 知らねぇうちに、この水戸駅で電車を降りてたと?」

「んだ。人間の体っちゃ、ほとほとよくできてんだなあ。よくよく覚えてるもんだなと思ってよ。毎日おんなじ列車で帰ってるしな」

すると、知り合いが変な顔をした。

「いや、それはおかしい。常磐線はもう18時っからずっと止まってたんだから」

「ええ? 何だって? 止まってたって、何でだよ?」

「脱線事故だ。ずうっと止まってんだから。上りも下りも汽車は来ねぇし、それで俺も帰れねくなって突っ立ってたのが、さっきだ。なのに、おめえはどこの列車さ乗ってきたっつーんだい?」

「おい、ごじゃっぺ(嘘)言うでねぇ」

「ごじゃっぺなもんか。おめえ1人だっぺ」

「そうすっと、俺はどっから来たんだっぺ? おい、今日は何月何日だ!?」

しかし、飲み仲間が答えた日付はその日のものだった。Mさんは混乱した。

結局、来るはずのない列車で、どう水戸までたどり着いたのかは分からなかった。

同じ常磐線の別の駅では、大脱線事故を起こした日から1カ月ほど経った頃だった。その事故は死者が160人、けが人325人という大参事だった。

やはりMさんが乗ったのは、彼らが成仏していく空への天国列車だったのだろうか。

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