藁人形と縁切寺(茨城県牛久市) | コワイハナシ47

藁人形と縁切寺(茨城県牛久市)

牛久市にある『牛久縁切り稲荷』には、藁人形に人型の紙を置き、中央を針で刺す『縁切り』が伝えられる。ご本尊であるダキニ天尊は、悪縁だけを断ちきってくれる。 本人が気づいていない悪縁がある場合も見抜くと言われる。自分では、信頼できると思っていた人が、実は自分の人生を阻害する人間だったりする。それを断ってくれる。その逆もしかりだ。人は愚かで、その縁が良いか悪いか相手の本質が見えないから、ここで見てもらう方が安全かもしれない。

林さんは、夫と小学生の子供2人の4人家族で市内の会社の事務のパートに出ていた。夫は仕事が忙しく、牛久から都内まで通っていた。帰りはほとんど終電で、平日、家にいる時間は夕食と睡眠時間しかなかった。そのため、林さんは夫と次第に話をしなくなっていった。

その夫がどうも様子がおかしい。林さんの帰りが少しでも遅くなると、「飯はどうした!」と激昂して家の家具をたたき壊したり、子供や林さんに向かって「出て行け!」と怒鳴り散らすようになった。精神に不安があるんじゃないかと林さんは心配していた。

そんな頃、同僚の霊感の強い女性に突然肩をたたかれてこう言われた。

「気になってたんだけども……いつも女の人が家にいるでしょう? おかっぱで痩せてて眼鏡かけた人。その人が今日はあなたの背中にべったりくっついて、ずるずる引きずってるの。あなたの顔色もひどいし、歩くのもその女がくっついてて重そうだから」

林さんはびっくりした。確かに体が重いし歩くのにも息がゼイゼイする。精神的なものか、更年期症状かと思っていた。まさか、女が憑いているなんて。

「後ろにくっついてるって……幽霊?」

「そう。あなたとあなたの家をすごく恨んでる。何か恨みを買うようなことした?」

「ううん……全くない」

「それなら、もしかしたら家の近くに大きな木がたくさんある場所がない? 昔からあるような大きな木。そこに関係してるかもしれないなあ」

話を聞いて林さんが思いついたのは、近所の神社の境内だった。その隣にこんもりした林がある。かなり昔からある神社なので木は相当古いと思われる。

「お祓いしてもらう方がいいと思う。私が見ただけでも、霊が相当くっきりといるから。もしかしたら……生霊かもしれない」

「どんな顔してるの? その霊……」

「おかっぱで眼鏡かけてるけど、目玉がないの。で、足元には黒い水たまりができてる。黒い水たまりっていうのは、環境のことね。家の近くに川がない?」

「川はないけど、下水があるかな。マンションがある場所は、元は沼と聞いてる」

眼鏡をかけた痩せた女性。そんな人に恨まれるはずはないが……。林さんはそれを聞いて体調が悪くなり、仕事を早退して、なんとなく例の神社に行った。神主さんはいなかったので、近くの林を見てまわった。

すると、奥の木の幹に人の形をした藁人形がくっ付いていた。それは胸に一本の五寸釘という一般的なものではなかった。藁人形には何本も釘が差してある。

「これって……」

ぎょっとして藁人形を見た。何か白い紙が貼ってある。林の向こうに白い服を着た人影が見えた。もしかしたら、この呪いをかけている人かも……慌てて林さんは立ち去った。

その夜更けに帰ってきた夫は、顔つきが変だった。狐のお面のように吊り上がって顔が真ん中に寄ったような顔だった。目も焦点が合わず、無言でふらつきながら帰ってきた。

「飲んできたの?」

と気軽に聞いたつもりだった。しかし、その言葉が夫の怒りを買ってしまった。

「うるせえ! 仕事して帰ってきたのに何だその言い草は!」

そこから、また家具や電気製品を蹴っては壊し始めた。その日はいつにもまして異常で、ついに警察を呼んだ。夫は警官にも手を挙げたので、その場で現行犯逮捕となり留置場から検察へと送られていった。嵐が去ったような家の中で、林さんは子供たちと茫然としていた。

「なんで、こんなことになっちゃったんだろうね」

すると子供たちは口を揃えてこう言った。

「実は……パパが寝てるとき、身体の上に女の幽霊が立ってたんだよ。昨日の夜はその人が一緒に入ってきたんだよね……パパがキレるときは、いつも女の幽霊が一緒にいるよ」

林さんはびっくりした。自分にも憑いているし夫にも……この家に2人も霊が憑いていることになる。それか、精神的なショックで子供たちは幻覚を見ているのかもしれない。林さんはしっかりと子供2人を抱きしめた。

会社に休むという連絡を入れようとしたとき、ピンポーンと玄関のベルが鳴った。

「こんにちは、会社の者です。お世話になっている林さんが、会社に来られませんでしたので心配で来ました。開けて下さい」

玄関のモニターを見た。顔は見えずスーツ姿の女性のようだった。子供たちが騒いだ。

「ママ、絶対開けたらダメ! ダメだよこの人は!」

林さんも、夫の会社の関係者に会うのは気が引けたので居留守を使うことにした。しばらくするとその女性も帰ってしまったようで、ベルを押さなくなった。

そして夫が釈放され、林さん夫婦は離婚することになった。夫からの申し出で、先に別居を開始していた。引っ越しをして2日目、荷物を取りに前のマンションに行くと、夫が出てきた。声をかけようとすると、なんとその後ろから女が出てきた。

おかっぱで眼鏡をかけた痩せた女だった。足元は黒いスニーカー。

「あなたは……!」

その女性はさっと夫の後ろから逃げたので、追いかけた。だが、あっという間にいなくなってしまった。夫には女がいたのだ。思えばすべてつじつまが合う。機嫌が悪くなったのもそうだ。家を出てほしいというのもその女と暮らしたいからだろう。失意の中、林さんは会社の同僚にその話をした。

「あの生霊、ご主人の不倫相手だったんだね。悪縁だったのよ、あなたとご主人は。でも、あなたの後ろにいた霊はもういないから、きっとこれからはいいことあるって」

そう彼女は明るく言った。林さんはそれでも元気にはなれなかった。

林さんはもう一度あの藁人形のあった場所へ行った。

カンカン! と音が聞こえた。やはり藁人形に釘を打ち付けている人影が見えた。こっそりと近づく。藁人形が2つに増えている。

「これでもういなくなったね。こいつも死んだ」

「浮気なんかする奴はこうだ。早く死ね」

カン! と打ち付ける音が鈍く響いた。人影が振り向いた。

その顔をみて驚いた。林さんの娘2人だった。林さんは青くなった。

「何してるの? ダメじゃない、こんなことして! こ、この藁人形は誰なの?」

「パパと、パパをおかしくした女の幽霊だよ」

「い、いつからこんなことしてるの?」

娘は2人共きょとんとした顔をして言った。

「ママの真似してるだけだよ。夜中ここに藁人形の釘打ちに来てたじゃない」

「なんですって……」

林さんは知らずのうちに、夫の藁人形を作って神社の木に打ちこんでいたのだ。

精神的に追い込まれた故の幽体離脱であろう。恐ろしいことに、全く記憶がないという。

子供2人は夜中に出て行く母親を見て、それを真似すれば、あの暴力的でうるさい親父を退散できると思ったそうだ。釘を打つほど、父親が狂う。それと連れて帰ってくる女の霊を見るのが嫌なので、その女の分との2体を作ったそうだ。

林さんは娘をうながし、その人形を牛久の縁切寺に持って行き、お祓いをして処分してもらった。その後、断ち切った悪縁はどうなったか?

夫の後ろにいた、おかっぱの女は夫の会社の部下であり、確かに夫の不倫相手だった。

しばらくは林さん達が暮らしていた家に夫と住んでいたと近所の人の話で知った。だが、急にいなくなったという。夫の子供を流産してしまったから、という噂だ。

夫は離婚後に車で死亡事故を起こし、刑務所に入ってしまった。

「けどね、人を恨んでもいいことありませんよ。夫が仕事を辞めてしまったから養育費が減ったわけですから。それに、私達だって母子家庭で生活が大変になってますしね」

と林さんは語る。林さんの子供たちがやってきた。

おかっぱに眼鏡をかけた、可愛らしくスレンダーなお嬢さんたちだった。

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