夜間ハイク(東京都 高尾山) | コワイハナシ47

夜間ハイク(東京都 高尾山)

巻田君は中学生の頃、ボーイスカウトをやっていた。

ボーイスカウトと言うと赤い羽根の共同募金くらいしか思い浮かばないかもしれないが、その活動は多岐に亘る。特にアウトドア方面に特化した団が多く、中には現役の陸上自衛官を隊長に迎え、ロープ渡と河かに懸けん垂すい下降や青木ヶ原樹海キャンプなど、陸自レンジャー部隊と同じメニューをこなすという強者の団もあった。

巻田君のいた団は、さすがにそこまではいかなかったものの、やはりアウトドア系の活動が多かった。

年に一度のイベントで、オーバーナイト・ハイクと呼ばれる夜間ハイキングがあった。これは夜の七時くらいに出発し、班ごとに登山道を歩いて真夜中の零時に戻ってくるという過酷なものだ。ルートとなる高尾山は、これまでにも何度となく歩いているが、夜歩くのは初めてだった。

巻田君達は四人ずつ六班に分かれると、それぞれ十五分ずつ時間を空けて登山口からスタートした。巻田君の班は二番目に出発した。

夜の山道で十五分も置くと前の班も後ろの班も全く見えない。指導者と離れて中学生たった四人で数十キロの距離を歩き抜くのには、体力の他に不安に耐える精神力も必要だった。コースの途中には簡単な暗号や課題のマークが置かれている。それを地図とコンパスを頼りに見つけながら慎重に進んでいく。

コースの三分の一くらいまできたところで、山道の前方から電気工事系の作業員らしき中年男性が、とぼとぼとくたびれた足取りで降りてきた。

「こんばんわ!」

すれ違うときに挨拶する。ボーイスカウトでは、「知らない人であっても、出会った人には挨拶をしろ」と教わるからだ。

しかし返答はなかった。まあ、そんなものだろう。

十分ほど歩いたところで、また前方から作業員が下りてきた。さっきと同じようにすれ違いざまに挨拶をする。

「こんばんわ!」

しかし返答はない。時間は九時を回っている。工事にしては遅すぎる時間だ。しかも、車に乗るでもなく機材を担ぐでもなく、たった一人で。

何か変だ。

また十分くらい歩いたところで、同じように作業員が下りてきた。

巻田君達は一様に顔を見合わせた。すれ違いざま、今度も挨拶するがやはり返答はない。

立ち止まって作業員を見送るが、曲がりくねった山道の向こうに隠れてすぐに見えなくなった。メンバーの一人が口を開いた。

「なあ、あのおっさん……さっきの人と同じ奴じゃないか?」

「おまえもそう思う?ていうか、さっきから歩いてきたの全部同じ奴だったよ」

そんな馬鹿な。一回我々から見えなくなるところまで降りて、林を迂回して上に回り込んでもう一度降りてくる?そんな馬鹿な。たった十分でできるわけがない。時間的に不可能だ。そもそも何のために?巻田君は緊急時の装備として渡されている無線機で、先行している一班と後発の三班に連絡を取った。

「こちら二班、巻田です。応答願います。大したことじゃないんだけど……そっちから作業員が歩いてきたんだけど、そういう人見かけなかった?オーバー」

『こちら一班、大上です。作業員?そんな奴いなかったよ。オーバー』

『こちら三班、山上です。こっちにも来てないよ。夢でも見たんじゃないの?』

二班のメンバーは顔を見合わせると、その後はずっと黙り込んだまま歩いた。

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