シェアハウス(東京都) | コワイハナシ47

シェアハウス(東京都)

岡本さんは、都内で数軒のシェアハウスを経営している。

若者に人気があり、近年は順調に業績を伸ばしているのだという。

「でも、店子さんも色々な人がいるからね。トラブルだって起こるし……その度にケアしなくちゃならないから、結構気苦労が絶えないよ」

一昨年の初秋、Aさんという若い女性がシェアハウスの入居を希望した。

笑顔が明るく、人当たりのよい娘で、岡本さんは〈彼女なら、皆と上手くやるだろう〉と、ちょうど空きのあった女性専用のシェアハウスを紹介したのだという。

「Aさん、関東圏の地方都市で暮らしていたんだけど、事情があって都内に移ることにしたらしいんだ。それで、安く住める場所を探しているんだって」

彼女は場所と家賃だけを聞くと、さほど悩む様子もなく入居を決めてしまった。

そして、その翌週には早々に共同生活を始めたのだという。

それから、ひと月も経った頃。

Aさんを入居させたシェアハウスで、問題が発生した。

住んでいる八人の入居者のうち、六人が別の住宅に移りたいと訴えてきたのである。

「さすがに驚いたよ。ひとりかふたりが転居を希望することはよくあるんだけど、いきなり半数以上ってのは初めてだったからね。慌てて、事情を聴いたんだ」

──最近、なにか変なんです、この家。

一番古株の入居者が、言い難そうに言葉を紡いだ。

なんでも、ここ数週間、家の中で奇妙なことが起こるというのである。

まず、最初に気になりだしたのが、家鳴り。

陽が落ちると、壁や柱が〈ばきばき〉と、割れるような軋み音を上げるらしい。

次いで、食器が勝手に動くようになった。

テーブルに並べた皿や茶碗が、一瞬で隣や向かいの席に移動してしまうというのだ。

それも食事をしている真っ最中に、ほんの数秒、目を離した隙に起こるのである。

誰かが、悪戯している様子でもなかった。

「この間なんか、触ってもいないコップが、目の前でいきなり割れたんですよっ!」

古株の女性が、声を震わせながら訴えたという。

「どうやら、店子さんたちがだいぶ怯えているらしくてね。本当かどうかは別にして、一度様子を見に行ったほうが良いかと思って……そしたらさ」

彼がリビングに入るなり、部屋の照明すべてが〈ボンッ!〉と破裂したのだという。

「一瞬で、パニックになっちゃってね。幽霊だの、祟りだのって。僕も年甲斐もなく取り乱したよ」

それでも、その日は何とか入居者たちを宥め、各自の部屋に戻って貰うことにした。

そして翌日、別のシェアハウスに移るよう、彼女たちに勧めたのだという。

このまま残りたいと言う者もいたが、大半は転居に応じてくれた。

「一旦、落ち着くまで、あの家を離れて貰ったほうがいいと思ってさ。ただ、気になったのはね、あの家、事故物件なんかじゃないんだよ。新築を買ったんだ」

だとしても、今回の騒動は大家としての沽こ券けんに関わってくる。

岡本さんは〈お祓いでもしてみるか〉と真剣に考え始めたという。

その矢先のこと。

別のシェアハウスで、再び幽霊騒ぎが起こった。

今度の家では、廊下や階段を〈見えない何者か〉が頻繁に歩き回るのだという。

昼夜お構いなしに足音が鳴り響くので、入居者が家にいられないというのである。

〈なんで、うちの物件ばかり?〉と岡本さんは頭を抱え──あることに気がついた。

Aさんだった。

騒動が起こったふたつの物件とも、Aさんが入居していたのである。

「もちろん、店子を無暗に疑う訳にはいかないけどさ、どちらにも関わっていたのは彼女だけだったんだ。それに、最初の物件も彼女が出ていった後には、妙な現象がぱったりと止んでいたんだよ。それって、無関係には思えないだろ?」

岡本さんは、Aさんに時間を取って貰い、直接聞いてみることにした。

「やっぱ、バレましたぁ?アレ、彼氏なんです……もう、死んじゃってますけど」

小ずるげに微笑みながら、さばさばとした口調でAさんが答える。

「でもぉ、私も困っているんですよ。死んだんだったら、おとなしくしていればいいのに。お陰で、新しい彼氏も作れないし。で、女性専用なら元カレも怒んないかと思ったんですけど……駄目だったみたい。でも、大家さん、私のこと、追い出したりしませんよねぇ?」

困惑する岡本さんに向き直り、Aさんがゆっくりと言葉を繋いだ。

──だって、元カレに憑かれているからって、立ち退きはさせられないでしょ?

見透かしたような瞳に見つめられ、岡本さんは返答に窮してしまった。

「結局さ、知り合いの不動産業者に頼んで、広い間取りの一DKを紹介して貰ったんだよ。引っ越し代と敷金もこっち持ちでね。まぁ、必要経費と割り切って」

Aさんは、特に不平を言うでもなく、転居してくれたという。

いまのところ、岡本さんのシェアハウスも以前の平穏さを取り戻している。

「でもさ……Aさん、いまでもひとり暮らしの部屋に、元カレとふたりで住んでいるんじゃないかって思うとね……気の毒にも感じるんだよ」

なぜ元カレが亡くなったのか、その理由は最後まで聞けなかったそうだ。

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