聖者の行進(東京都世田谷区 明大前) | コワイハナシ47

聖者の行進(東京都世田谷区 明大前)

数年前の夜、所用があって亀山さんが明大前の通りを歩いていたときのことだ。

歩道の端に設置された、公衆電話が鳴っていた。

が、辺りを見回しても、電話に出ようとする人はいない。

一瞬、〈どうしたものか〉と迷ったが、取り敢えず受話器を上げてみた。

すると──受話器から「聖者の行進」が流れてくる。

軽快な、ジャズのスタンダード・ナンバーである。

だが聞こえてくるのは、それだけだった。

「もしもし、聞こえますか?」と、何度か問い掛けたが、相手の返事はなかった。

ずっと聞いているのも無駄だと思い、受話器を置くことにした。

それから、ひと月が過ぎた頃である。

ある夜、仕事が遅くなり、亀山さんは終電近くに自宅の最寄り駅に下りた。

他に乗客の姿はなく、また無人駅なので酷く静かである。

自宅に帰ろうと、駅舎を出て──電話ボックスが鳴っていることに気づいた。

〈こんな時間に……また?〉と、さすがに訝しく思った。

だが、いくら待っても電話は鳴り止まない。

見過ごすことも出来ず、受話器を取り上げると「聖者の行進」が聞えてきた。

〈そんな馬鹿な?〉と、唖然としていると──

「……ガチャンッ!」と、向こうから一方的に切られた。

それ以来、呼び鈴を鳴らす公衆電話に出くわしたことはない。

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