そば女(東京都) | コワイハナシ47

そば女(東京都)

「僕、夕飯は仕事帰りに、外食で済ますことが多いんですよ。独身だし、残業も増えているもんで。でね、最近ちょっと気になることがあって……聞いて貰えますか」

友人の紹介で取材させて頂いた中村さんが、そう前置きをして語った体験談だ。

彼は都内の中堅商社で働く、若手社員である。

会社に近い場所にアパートを借りたそうで、毎日、徒歩で通勤しているという。

そのため、帰宅時間が遅くなると、途中にある飲食店に立ち寄るらしい。

特に、手っ取り早くて値段の手頃な、チェーンの蕎麦屋が彼の好みだそうだ。

「ただ、どうしても時間が遅くなるので、かつ丼とか、割とがっつり系のをよく頼みますね。で、注文した品を、待っているときのことなんですけど」

入り口付近の席に若い女性が座っているのを、よく見かけるのだという。

薄手のブラウスにタイトスカートを穿いた、ごく普通のお嬢さんである。

だが、そこは立ち喰い蕎麦屋。しかも、時間帯が遅い。

〈あまり、若い女性が来るような店じゃないのに〉

その女性を見掛けるたびに、中村さんは不思議に思っていたという。

「でも、よく見掛けるってだけで、まったくの赤の他人だし、じろじろ見ていた訳じゃないですよ。ただ、ひとつだけ、妙だと思うことがあって」

彼女が食事をしている姿を、見たことが無かった。

コップ水さえ置かれていないテーブル席に、じっと座っているだけなのである。

が、飲食店でそんなことをするのは、さすがに迷惑だろう。

〈もしかしたらこの娘、店員の仕事が終わるのを待っているのかも〉

あるとき、そのことに気がついた。

そう言えば、調理場で蕎麦を作っている店員にひとり、若い男性がいる。

恐らく、あの若い女性は店員の彼女で、彼氏と一緒に帰宅がしたくて、店内で待たせて貰っているのではないかと考えたのである。

「そうなると、ちょっと羨ましいと言うか……いい感じの話じゃないですか。それで、冷やかしのつもりで、男性店員に声を掛けてみたんですよ。『キミの彼女、いつも待ってくれているんだ?』ってね」

すると、店員は『はぁ?』と、顔面に大きな疑問符を貼りつけた。

聞くと、その店員は家計が苦しく、彼女など作っている余裕はないらしい。

かと言って、もうひとりいる店員は年配のおっさんである。

彼女云うん々ぬんと言うような歳ではない。

少し拍子抜けしてしまい、中村さんは女性についての詮索をやめたという。

それから数日後。

その日も帰りが遅くなった中村さんは〈たまにラーメンでも食うか〉と、少し離れた場所にある専門店まで歩いていった。

席に座って注文を済ませ、ひと息吐くと──あの女性がいた。

向かいのカウンター席に座って、じっとこちらを見詰めていた。

ラーメンを啜っているようには、見えなかったという。

その翌日は、ファミレスだった。次は、別のラーメン屋。

やはり、あの若い女性が、店内のどこかの席に座っている。

だが中村さんは、〈この娘、よく出くわすなぁ〉くらいに考えていたという。

頻繁に見掛けるだけで、それ以上のことは何もなかったからである。

そして、つい最近のこと。

その晩は会社の飲み会があり、深夜になって帰路に就いたという。

ほろ酔い加減でアパートの階段を上がり、自室のドアに鍵を差し込んだ。

すると、〈ガチャリ〉と隣の部屋のドアが開いた。

中から──あの女性が現れた。

女性は挨拶もせずに廊下を歩いていくと、階段を下って姿が見えなくなった。

〈ああ、あの娘、隣に住んでいたんだ〉

酔った頭でぼんやりと考え、靴を脱ぎながら〈はっ〉と思う。

──隣は、空き部屋だった。

そう気づいた途端に怖くなり、朝まで布団でガタガタと震えていたという。

「で、いまでも頻繁に見掛けるんですよ、その女。なるべく気にはしないようにしているんですけどね……こういうのって、どうしたら良いですかね?」

正直、対処方法など知らないので、「さぁ?」と答えておいた。

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