じょうおうのおしごと!(福岡県) | コワイハナシ47

じょうおうのおしごと!(福岡県)

先日、顔馴染みの居酒屋で、桜井さんという五十絡みの男性を紹介頂いた。

聞くと、とある有名企業で役員職に就いている方なのだという。

非常に有能な人で、毎日、忙しく地方を飛び回っては、次々と大きな商談を纏めているそうだ。

また、仕事に対する志が高く、人望のある人物であることが見て取れる。

殊ほど左様に、非の打ちどころのないビジネスマンである桜井さんではあったが、もうひとつ、まったく別な面でも社内で名が知られていた。

大変な、SMマニアなのである。

「いやさ、以前上司だった部長に、趣味をバラされてね。しょうがないから、開き直って、趣味を公言することにしたんだよ」

女子社員はドン引きしたというが、彼は性格が明るく、話術の巧みな人である。

ウイットに富んだ彼の話を聞いているうちに、「趣味は人それぞれだから」と、大抵の社員が納得したらしい。

「私はM専門なんだけど、結構ウケるんだよ。飲み会とかで『SMあるある』とかやるとさ。結局みんな、興味があるってことなんだろう」

そんな桜井さんから、聞いた話である。

ある年のこと、桜井さんは福岡に長期の出張をすることになった。

一年の大半を出張に費やす彼は、日本各地に行きつけのSMクラブがあるらしい。

もちろん、福岡とて例外ではない。

市内に一店舗、とても贔屓にしているクラブがあるのだそうだ。

「その店に『ノン様』っていう源氏名の女王様がいてね。年齢はまだ三十代だったんだけど、プレイが的確でね。福岡に出張する際には必ず予約を入れていたんだよ」

出張の初日、仕事を終えた桜井さんは、早速、そのSMクラブを訪れたという。

そして、予約していた「ノン女王様」を指名したのだが、店長の顔が浮かない。

深々と頭を下げながら、こんなことを言った。

「桜井様、大変申し訳ございません。弊店の『ノン』でございますが、急に体調不良を訴えまして、本日はお休みを頂いております」

丁寧に謝罪した後、「他のスタッフでは如何いかがですか?」と写真を差し出してきた。

見れば、写真の女性も中々に、虐められがいのありそうな容姿をしていた。

〈まぁ、たまには別の娘もいいか〉と、桜井さんはプレイをお願いすることにした。

「でも、イマイチだったんだよ。当然、基本のプレイはやるんだけど……いいところまで来ると、手加減しちゃうんだよ。女王様に成り切れていないんだね」

桜井さんは責められながらも、物足りなさを感じていたという。

そんな状態が暫く続き、〈今日は早めに終えるか〉と諦めかけたときである。

ふと気配を感じ、部屋の片隅に目を向けると──ノン女王様が立っていた。

エナメルのボンテージスーツに身を包み、無言で、冷ややかな視線を放っている。

まるで〈お前は裏切ったのか?〉と、問い詰めるような眼差しだった。

──それが、とても良かった。

背筋のぞくぞくするような、初体験の快感を覚えたのである。

「背徳感って言うのかな。別の女王様に責められながら、『ノン女王様』に罪の意識で責められている感覚でね。たださ、彼女、体調が悪いと聞いていたから……」

もしかしたら、一旦指名を断ること自体が、演出の一部なのだろうか?

そんな風に、桜井さんは解釈したという。

やがてプレイが終わり、いつの間にかノン女王様は部屋からいなくなっていた。

非常に満足した桜井さんは、上機嫌で3P分の料金を支払い、退店したそうだ。

「で、そのプレイが凄く良かったんでね。翌週も、その次の週も、店に行ったんだよ」

他の女王様とのプレイのたびに、ノン女王様は部屋を訪れてくれた。

氷のような冷たい視線で桜井さんを見下して、いつの間にかいなくなっている。

言葉は無かったが、それが却って桜井さんの被虐心を煽あおった。

とても新鮮で、充実したプレイを、毎回堪能することができたのである。

そんな、ある日のこと。

プレイを終えて料金を支払うと、店長がにこにこしながら挨拶に現れた。

「有難うございます。桜井様にはいつも余分にチップを頂きまして、スタッフ一同、大変感謝しております」

そんなことを言いながら、何度も頭を下げたという。

が、どうにも府に落ちない。

桜井さんには、チップを支払っているという認識が無かったからである。

気になって、自分にはふたりの女王様がついてくれていることを話すと──

蒼ざめた表情で「桜井様……実はですね」と、店長が説明を始めた。

「ノンさんね、亡くなっていたんだよ……つい三日前だったらしいんだけどね。私が最初に訪店した日に倒れてから、ずっと入院していたそうなんだ」

残念に感じた桜井さんは、「私が葬儀に出る訳にはいかないから、代わりに香典を包んでやってくれないか」と、店長にその場で十万円ほどを手渡したという。

「仕事熱心な娘だったからね、入院している間も……亡くなってからでさえ、仕事のことが気になっていたんだと思うよ。SMの女王様として、本当に見上げた娘だよ……もっとも、私は土下座か四つん這いだからさ、見上げたことしかなかったけど」

「──それが落ちなの?」と突っ込みたくなったが、やめておいた。

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