水飲み場(愛知県名古屋市中区) | コワイハナシ47

水飲み場(愛知県名古屋市中区)

今は介護士をするLさんが幼い頃、祖母から聞いた話。

祖母は戦前から教師をしていて、戦後も中区の小学校に赴任していた。

学校は戦時末期に空襲で焼けたものの、いち早く再建され、真新しい校舎や体育館などが建てられた。中でも、体育館に隣接する、水飲み場(手洗い場)は設置当初から子供たちの人気となった。

ところが、水飲み場で夜中に蛇口から水が勝手に流れ出す出来事が頻繁に起きるようになった。

用務員が生徒の下校後、何度も蛇口が締まっていることを確認しても、夜中に勢いよく水が流れ出し、翌朝にはグラウンドまで水浸しになることもあったという。

蛇口の栓を交換しても変わらず、水道管にも特に異常は見られない。

Lさんの祖母ら教師たちは外部のいたずらを疑い、犯人を捕まえようと夜中に張り込むことになった。

教師たちが明かりを消した職員室で待機していると、突然、外の水飲み場で音がした。懐中電灯をつけると犯人が逃げると思い、教師達は忍び足で暗闇から近付き、水飲み場を覗いた。

薄暗い闇に目が慣れるよりも早く、水飲み場で何かが蠢いた。

……いる……何がいるの……? 祖母は固唾を呑んで見守った。

水飲み場の蛇口から流れ落ちる水に向かって、いくつもの、小さな白い物が浮かび上がった。さらに赤い物も見える。

あれって……歯だ……舌も……。

人の歯や舌が動いているのに、肝心の顔がはっきりしない。

「誰だ!」

たまらず男性の教師の叫び、懐中電灯をつけた。

水飲み場の周囲には、数人の全裸の人が群がっていた。全身が焼けただれて、髪は抜け落ち、皮膚はケロイドと化し、男女の性別もはっきりしない。皆、水飲み場の蛇口から勢いよく流れる水に、顔を向け、口を開けて、浴びるように飲んでいる。

異様な光景に祖母が思わず悲鳴を上げても、全裸の人々は振り向くこともなく、焼けて膿にまみれた、背中を曲げて、体育館の方へと走り去った。

教師達は水飲み場に近付き、蛇口の水を止めると、彼らを追って校内を探したが、その姿はどこにも見つけることができなかった。

念のため、警察を呼び、付近を捜索したが、同じだった。

最初は戦争孤児が校舎の床下などに住み着いていると思ったが、真新しい校舎や体育館をくまなく探しても、その痕跡すら発見できなかった。

それでも彼らを目撃した教師たちは皆口をそろえて「見間違いではない」と断言した。

しかし次第に、それが生きた人間ではないのではないかと思い始めた。

「祖母も、彼らがあまりにも生々しく存在していたので、最初は絶対に幽霊じゃないと思ったそうです」

彼らの正体。戦時中は空襲の焼夷弾で、全身に大やけどを負い、学校のグラウンドや体育館に収容された人が後を絶たなかった。しかし医師も薬も足りず、なすすべもなく命を落としていった。焼けただれ、身元もわからず、ただ死の淵で水を求める姿を祖母は何度も目撃していた。

その後、祖母達教師の提案で、問題の水飲み場でお祓いが行われた。しかし、その甲斐もなく夜中に蛇口から水は流れ続け、学校では水飲み場の取り壊しも検討された。

「それでも祖母は『この目ではっきり見えるぐらい、強い怨念だったんでしょ……。だったら私たちもちゃんと成仏できるようお祓いをしてあげないと……』と思ったようです」

祖母達は寄付を募って、お祓いを続けてもらい、五度目のお祓いの後、ようやく水が流れるのが止まったという。

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