外せないエクステ(東京都) | コワイハナシ47

外せないエクステ(東京都)

Cさんはアニメや漫画が大好きで、イベントのたび友達と出かけては、大好きなキャラのコスプレを楽しんでいる。特に夏と冬の年二回、東京・台場で開かれる通称コミケ(コミックマーケット)は、全国のコスプレ仲間に会える機会であり、新しいコスチュームを披露するための場であった。

ところが昨年の夏は、急な用事が入ってしまったため、Cさんはコミケに参加することが出来なかった。

夏に参加出来なかった分、冬のコミケではやったことのないコスプレに挑戦したい。

何をしたらよいだろうと悩んでいた時、ふと頭の中に長い黒髪の大和撫子が浮かんだ。彼女の普段の髪型は、茶髪のショートヘア。そのため、いつもそれに近いボーイッシュなキャラばかりを選んでいたため、大和撫子のようなキャラクターは初めてだった。

(だったら、今回はウィッグじゃなくてエクステにしてみよう)

そう思った彼女は、黒いロングのエクステを使うことに決めた。いつも使っているファイバー製のエクステでも良かったが、今回は毛量が多いため冬の乾燥したお台場では、どうやっても静電気がエクステに溜まってしまう。そうなれば髪型は無茶苦茶だ。

そこで彼女は、人毛で出来たロングエクステを探すことにした。

行きつけのコスプレショップやネットを探してみたが、長さや値段など彼女の条件に合う物はなかなか見つからなかった。

冬のコミケまであと数日。見つからなかったらファイバーのエクステでも仕方ないと思い始めた矢先、ダメ元で探していたネットショップで条件にぴったりのエクステが見つかった。迷うことなく彼女は即決した。

二日後、小さめの段ボールがCさんの家に届いた。すぐに箱を開け緩衝材を取り出すと、ビニール袋に入れられたエクステが現れた。予想していたよりコンディションは良いみたいだ。そう思いながら袋に触れた瞬間、体が震えた。

(寒気? まさかね……)

Cさんは袋をカバンにしまうと、エクステを装着してくれる美容室へと向かった。

冬コミの当日、Cさんの姿は国際展示場のデッキにあった。彼女のコスプレは予想以上に仲間やカメラマンたちから好評で、彼女の周りは幾重にもカメラマンたちが取り囲んでいた。

そのうちのひとり、常連のカメラマンが、

「Cちゃん、髪になにか白い物が付いてるよ」

と彼女の左耳元のあたりを指した。

その日は朝から風が強かったので、彼女は飛んできたゴミか何かが付いたのだと思った。

「……このあたりですか?」

首をかしげながら、彼女はカメラマンが指すあたりに手を伸ばした。

──フワァァァァァァ~

突然の海風が髪をふわっとなびかせた。不意に指先が髪に触れる。と次の瞬間、指が何かに掴まれたような感じになった。

(えっ……)

咄嗟に振り払おうとしたが、指が何かに掴まれているのか、手が動かせない。

(なんで? なんで?)

Cさんは慌てた。必死に腕を振っても、手は左耳のあたりで固定されてしまったかのよう動かない。やがてひとりパントマイムの様に彼女は、その場でくるくると回り始めた。

その様子を見かねた仲間のコスプレイヤーたちが駆け寄ってくると、彼女を抱え近くの壁際まで連れて行った。壁際に着いてみるといつの間にか手は自由になっていた。

「ゴミ、髪の中まで入ってたの?」

壁際で放心状態でいるCさんに、介抱してくれた仲間が聞いてきた。

「……髪の中? なんで?」と聞き返すと、

「だって結構髪の奥まで指を突っ込んでたでしょ……まるで髪が指に巻き付いて取れなくなってるみたいだったよ」

それを聞いた彼女は怖くなった。確かに指が何かに掴まれたような感触はあった。しかし自分の感覚では、指先は髪に触れた程度。しかし実際には、風に煽あおられた髪の毛が指に巻き付き、髪の奥へと引っ張り込んでいたのだ。

(早くこんなエクステは外さないと……)

普段ならば半月ほど付けたまま楽しんだ後、美容院で外して貰うのだが、今回はそんな悠長なことは言ってられない。とはいっても時間的に今からやってくれる美容院はない。

Cさんは恒例となっているコミケの打ち上げをキャンセルすると、急いで家に戻った。

部屋に飛び込み鏡の前に座ると、彼女は頭のエクステを外し始めた。

今回のエクステは、地毛にシールで張り付けるタイプなので、かなり時間は掛かるが自分で取ることは出来る。

鏡を見ながら張り付けた場所を確かめると、留めてあるシールを剥がす。ところが、シールを剥がしたにも関わらずエクステが取れない。剥がし忘れたシールでもあるのかと、鏡に頭を近づけて確かめると、地毛にエクステが絡みついている。

(どうなってんの?)

両手でエクステを掴み、思い切り下に引っ張った。しかし取れる様子はない。何度か試した後、ふと顔を上げると鏡に映る自分の背後で、頭を虎刈りにされ苦悶の表情を浮かべた女が彼女を睨んでいた。

(────!)

Cさんはそのまま気を失った。

彼女が気づいたのは、翌朝のことだった。

はっきりしない頭の中で、昨日おきた事を順に思いだす……。

(そうだ! エクステをはずさないと!)

慌てて飛び起きると、鏡を覗き込んだ。ところが鏡に映った自分の頭に、あの黒髪のエクステがない。まさかと思って、周囲を確かめたがエクステは何処どこにも無かった。

今でもアジアの一部では、不法な手段で奪った女性の髪を扱うマーケットがあるという。あのエクステはそんなところから流れて来たのかも知れないと、Cさんは思っている。

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