霊園 車に張り付く女(東京都) | コワイハナシ47

霊園 車に張り付く女(東京都)

タレントのAさんは番組の企画で、心霊スポットに行くことになった。

同行するNさんは、現地でのレポーターを任されていた。

心霊スポットと言えば、東京から車で何時間もかけて森やトンネルに行くことが殆どだが、この番組では東京都内の心霊スポット巡りをすることになっていた。

出演者はAさんの他に、ジャーナリストや女優、グラビアアイドルやお笑い芸人と、多様なメンバーがキャスティングされていた。番組はもともとバラエティで、この回は夏の特番として構成が組まれることになり、和気あいあいとした雰囲気の中、収録は始まった。

収録は、甘味屋さんでかき氷を食べるところから、開始される。

普段は畑の違うところで仕事をしている出演者たちだったが、それが逆に良かったのかすぐに全員が打ち解けて良い雰囲気となっていた。ただ、この番組は心霊スポット巡りだ。この後、実際に現地へ行くと思うと、霊感の強いAさんは何となく気分が沈んでいた。

甘味屋さんを出た後は、すぐにロケバスの車内で撮影が開始された。

車内では心霊写真の解説やコメント撮り、自身の体験談などを順番に話していく。

しだいに日も暮れ、ようやく心霊番組らしくなってきた。

これから何カ所かを巡るのだが、全員で現場に行くのではなく、番組のメイン司会者であるジャーナリストのSさんと、他の出演者が一人ずつ着いて行くという形式だった。

そしていくつかあるうちの目的地のひとつを何人かでまわった後、再び車内に戻ってきて、お笑い芸人のNさんが怪談を語り始める。ロケバスは次の目的地を目指して動きだす。

Nさんの話は、とあるカップルの実体験だった。

ある時、そのカップルがホテルに宿泊すると、何者かが窓を叩く音がする。

知らぬふりをしていると、やはり何者かが窓を叩いてくる。

何がイヤって、この部屋二階にあるんです。人間が窓叩けるはずがないんですよ──。

こんな内容の話をNさんはしていた。

その語りを聞いている中盤でどこからともなく、鐘の音が聞こえてくることにAさんは気がついた。それは脳内にダイレクトに聞こえてくるような不思議な音だった。話をしている間、鐘の音は鳴り続けている。もし仮にどこかから聞こえてくるのであれば、ずっと同じ音量で聞こえてくるはずはない。車は走り続けているからだ。

そして、Nさんは話の最後でこう言った。

「翌朝そのホテルの窓開けてみたら、びっしりお墓が建っていたんですって。どうやらお寺の一角だったみたいなんです」

Aさんはそれを聞いて、納得した。やはりそういうことだったのかと。この鐘の音は、他の誰にも聞こえていなかったようで、Nさんの怪談が終わると同時に鳴りやんだ。

(今日は、バッチリ波長が合ってしまう日だな)

Aさんは嫌な予感がしていた。彼女は霊能者ではなく、日常的に霊が見えっぱなしということでもなかったのだが、実は非常に怖がりなのだ。しかし一度この波長が合ってしまうと、続々と見えたくもないものが見えてしまうようになるという。先ほどの鐘の音を聞いた時(ああ、始まってしまった)と覚悟を決めていた。

この後は車内で夕食を食べたり、心霊写真コーナーの話になり、しばらくは外には出ずに車内での収録が続く。

深夜二時に、この番組最後の目的地である都内で最も有名な心霊スポットと言われている霊園に到着した。

この収録で下車するのは、グラビアアイドルのHさんとお笑い芸人のNさんだった。

Aさんと女優のYさんはロケバスで待機をすることになった。出演者、スタッフ達が墓地へ向かい、待機組のAさん達は墓地と墓地の間にある車道に停めた車内で待つことになった。

この墓地周辺にはこんな話がある。

タクシー運転手が深夜このあたりにさしかかると、女性が手をあげて立っている。その女性を乗せて「どちらまで?」と聞くが返事がない。

不審に思いバックミラーを見ると、誰も乗っていなかった──。

こんな類の話が多く、タクシーの運転手達は深夜、この辺りを走ることを嫌がるそうだ。ありがちな話ではあるが、Aさんはこの場所へ来たくはなかった。

収録は夕方から続き、時間も時間だったので疲れも溜まりだしていた。だんだんと恐怖感は薄れていき、それよりも眠気の方が強くなっていた。

車内にはAさんの他に女優のYさんと女性スタッフ一名、ドライバーが残っていた。

「Aさん、Yさん、少し休んでいてください。しばらくカメラも止めますから」

スタッフが気を利かせて、Aさんたちは休むことにした。

夕方からカメラが回りっぱなしでオフの時間がなかったため「休んでください」の言葉でどっと疲れが出てしまった。ドライバーさんは仮眠をとっていたが、Aさん達はまだこの後も撮影が残っているので目は閉じていても起きていた。

それから数分後、突然、ピシッと空気が変わったのを感じてAさんは顔をあげた。

車内に異様な空気が立ち込めている。

スタッフは今まで撮影したビデオカメラをチェックしていて女優のYさんは目を閉じていた。

(なんだろう? この感じ)

Aさんはゆっくりと、周囲を確認した。そしてすぐに「うわぁっ!」と悲鳴をあげる。

目の前の車のフロントガラスに──女が貼り付いている。

「なんですかっ!」

スタッフは慌ててカメラを回し始めた。

フロントガラスに、真っ白な顔をした女が貼り付いて、中の様子を伺っているのがAさんにははっきりと見えている。彫りが深く、エラの張った顔で髪はセミロングだ。目は洞穴のように真っ黒である。おまけに女は赤ん坊を抱きかかえている。その赤ん坊は──首だけを不自然に、グニャリとこちらに向けた状態で中を見ていた。

なにやっているんだろう、とでも言いた気な様子で母子は車内を覗き込んでいた。

Aさんは、女がガラスに貼り付いていると思ったのだが、どう考えてもボンネットがあるからそんな場所に顔があるはずがない。

この女は、半分体が車に入り込んでいることがわかった。

(どうしよう、どうしたらいいんだろう?)

そう思って見ていると、女がAさんの顔をジロリと見た。どうやらAさんが視えていることに気がついたようだった。

Aさんはすぐさま目を逸らした。スタッフが「まだいますか?」と尋ねてきたので、もう一度見ると女はAさんを睨みつけ──目を逸らさない。

「すいません! ちょっとつかまったかもしれません! 車、少し移動してください」

Aさんはドライバーさんを揺り起こし、停車位置を変えてもらうことにした。

その直後、ロケ組が車に戻って来た。

すぐに車に乗り込んで来るメンバーに声をかけた。

「今さっき女と赤ん坊の霊が現れたから、まだその辺にいるかもしれないです」

すると、霊感のあるグラドルのHさんが辺りを見て「今、いないみたいよ」とつぶやいた。

Aさんはほっとして椅子に座り直した。その時、Aさんの右側の窓ガラスに、何かが横ぎった。恐る恐る窓を見ると、すぐ目の前の窓ガラスに先ほどの女が貼りついていた。その瞬間、Aさんは気を失ってしまった。

気がつくと、夕方収録前に集合した場所に戻って来ていた。

うっすらと夜が明け始め、墓地からも離れたので、Aさんの心もやっと落ち着きをとりもどしていた。日の光というものは本当に安心するものなのだと改めて感じた。

「みなさまお疲れ様でした。忘れ物ないようにお願いします!」

スタッフの声で車を降り、解散することになった。

(今日はゆっくり休もう……)と車を降りる瞬間、何気なく前を見る。

女はまだ、フロントガラスに貼り付いていた。

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