オシラ様(青森県) | コワイハナシ47

オシラ様(青森県)

これは青森県出身のFさんの話。

彼の実家は古くからの商家で、先祖代々オシラ様を祀っている。

オシラ様というのは、東北地方を中心に信仰されている神様のことで、女性の病気や馬にまつわる農耕、養蚕の神様として知られている。

諸説あるが、オシラ様の由来はこんな話である。

昔々のこと。ある農家に美しい娘がいた。その娘が飼っていた馬に恋をし夫婦となる。ところが娘の父親はそれを知って激怒し、馬を桑の木に吊るすと殺してしまう。

娘は殺された馬の首にすがりついて泣いた。しかし父親は、その娘の姿すら許せず、馬の首を切り落とす。

すると娘は、切り落とされた馬の首に乗ると、天へとのぼっていきオシラ様となる。

オシラ様は夢に現れ村人に、桑の木で蚕を育てるよう伝え、それにより村は後々栄えたという。

彼の実家では、二本の桑の枝それぞれに、若い女性と馬の顔を作る。それを綺麗な布で着物のように幾重にも巻くと、オシラ様として、庭の祠で祀る。

そして年に一、二度近所に住む老婆がやってきてオシラ様を手に取ると、人形遊びのような儀式をした後、新しい布と交換。古い布は服の裏地にしたり、財布に忍ばせたり、または御守り袋などにして、その御利益に預かるのだそうだ。

ところがFさんは、実家のオシラ様があまり好きではなかった。

ぐるぐる巻きの布の上に乗った小さな頭というその姿が、クリスマスに被るような派手な三角帽の先に、干した生首を乗せたようにしか見えなかったのと、女性のオシラ様の恐ろしい形相が理由だった。

「神様のばて(なのに)、なしてこらほど怖い顔してらの(してるの)?」

幼い頃、Fさんはオシラ様の前で拝んでいる祖母に聞いたという。すると祖母は、

「昔は優しい顔ばしてたんしたばってきゃ(顔をしてたんだけどね)……」

とこんな話をはじめた。

それは今から七十年ほど前。

長く続いた太平洋戦争も終わり、任地にいたFさんの祖父が青森の家へと戻って来たのは終戦から半年ほど経ってのことだった。

家に戻ると先に戦地から帰って来ていた兄がすでに家業を手伝っていたが、休む間もなく祖父も手伝うことになった。

ところが、戦後の混乱もあり品物が手に入らず、商売が思うようにゆかない。

最初のうちは、しばらく我慢すればまた元通りになると高をくくっていたが、半年経っても、一年経っても良くなる兆しは見えず、どうしたものかと困り果てていた。

そんな時、近所に住む親戚の良三さんが、

「稲荷さんかきや、お御霊ば頂いてきたし」

と白い布に包まれた桐箱を手渡した。

それは商売がうまくいかないのを見かねた良三さんが、わざわざ伏見稲荷大社まで詣で、分霊して貰った御霊箱だった。

良三さんの心遣いに、その場はありがたく頂戴したものの、箱は三十センチ四方ほどの大きさがあり、家の神棚には乗せられない。とはいっても、お御霊だけにそこら辺に置いておくわけにもいかない。

困った祖父が兄に相談してみると、庭にあるオシラ様の祠の中に納めるのが良いのではないかといわれた。

直ぐさま祠へ向かった祖父は、祠の扉を開けると中を覗いた。畳半畳ほどある祠の正面には、木でこしらえた神棚代わりの台が置かれ、その上には真っ赤な布を巻かれた馬の頭のオシラ様と、美しい女性の顔を持つオシラ様が置かれている。

祖父は手にしていた箱を台の前に持っていくと、置けるかどうかを確かめた。

(どうやら大丈夫そうだな)

置けることを確かめた祖父は、箱を脇に抱え右手で手て刀がたなを切ると、棚の上のオシラ様を端に寄せて、

「へんべどごじゃが、何んぼぞ(狭いところですが、どうぞ……)」

と、作った隙間に箱を置いた。

お稲荷様をお祀りしてからしばらくが過ぎた。

大変だった商売も徐々に好転し、これもお稲荷様のおかげと噂していた時のことだった。

祖父の家に箱を持って来てくれた良三さんが、畑仕事中に突然倒れて死んだ。脳溢血が原因だということだったが、突然のことに皆驚いた。

良三さんの葬儀も終わり、ほどなく今度は祖父の父親が店で倒れた。急いで医者へ運び込んだが、間に合わなかった。今度も脳溢血だと聞かされた。

店は祖父の兄が家を継ぐことになったが、半年もしない夏の日。その兄の幼い長男が田んぼの水路に落ちて死んだ。

それが原因だったのか、続くように兄夫婦が病に倒れ、店が傾きはじめた。

さすがにこうも不幸が続くと、今度は自分の番かも知れないと思った祖父は、いつもオシラ様の祠で儀式をしてくれる老婆に相談した。

村の者に付き添われやってきた老婆は店に入るなり、

「オシラ様の祠がおがす(おかしい)!!」

と言いだし、庭へと歩き始めた。やがて祠の前までくると、

「オシラ様がお怒りサなていら!! すぐサ扉ば開けいまれ(開けなさい)!!」

と叫んだ。

さすがの剣幕に、祖父が慌てて扉を開けて中を覗き込むと、思わず息を飲んだ。

美しかった女性のオシラ様の形相が変わっていた。目は恐ろしいほどにつり上がり、口は大きく裂け、一目で押さえきれない怒りを発しているのがわかる。

「オシラ様どお稲荷様ば、むつけらしたかきや(一緒にしたから)罰があたったんだ」

うしろで、ため息の混じった老婆の声がした。

祖父はすぐに庭にもう一つ祠を建てると、改めてそこにオシラ様を祀り、その際、女性のオシラ様の顔を新しいものに取り替えた。

しばらくすると、兄夫婦の病気も快かい癒ゆし、店も持ち直した。

ところが、再び儀式の時にオシラ様を取り出して見ると、作り直したはずの顔は再び恐ろしい顔に変わっていた。

「大事サしてら限りオシラ様は守ってぐれらんしたばって(守ってくれるけど)、裏切ったきや許してぐれねのし(ゆるしてくれないのよ)」

祖母はFさんにそう話すと、もう一度オシラ様に手を合わせた。

Fさんの家系では頭の病で亡くなる人が多い。Fさんも若くして頭に病が見つかり、いまも闘病をしているのだという。

「オシラ様はきゃ、こちきやかきや(こちらから)やまなぐら(やめる)ことの出来ね神様だかきや(だから)、大事サしねどまいねし(いけないよ)」

Fさんは東京へ出て来た今も、祖母のこの言葉が怖くて忘れられないそうだ。

シェアする

フォローする