吉原奇譚(東京都) | コワイハナシ47

吉原奇譚(東京都)

イベント関連の仕事をしているMさんは仕事柄、様々な職業の人と出会う機会がある。

「先日も打ち合わせの時、吉原のソープランドで働いているA子さんという女性と知り合ったんですよ。知らない業界のことなので、取材半分で色々と質問をしていると、突然彼女がこんな話を聞かせてくれましてね」

それは彼女が店で働き始めて間もない頃のこと。

その日もいつものように最後の客を見送り、部屋の中を片付けていると、ボーイが中へと入ってきた。手には手当の入った封筒が握られている。

「A子ちゃんお疲れ様! これ今日のお手当三万六千円ね。数えるから一緒に確認してくれる?」

そう言ってボーイは封筒から札を出すと、彼女に見せながら数え始めた。

A子さんの店では仕事が終わると、すぐにその日の手当を、計算しボーイが部屋まで持って来てくれるシステムになっている。その際トラブルを防ぐため、ボーイとソープ嬢が一緒に支払額を確認する。

「三万四千、五千……六千円と……」

金額に間違いないことを確かめると、A子さんは差し出された領収書にサインした。

「お疲れ様でした。もし何かあったら連絡してください」

そう言うとボーイは札と封筒を彼女へ手渡した。

受け取った彼女は部屋を出ると、すぐ更衣室で着替えを済ませ店を後にした。

タクシーに乗り込むと、彼女はさっき貰った札を財布へ移し始めた。ところが封筒から出てきたのは二万六千円。一万円足りない。

慌てて周りを確かめたが、カバンの中にも座席や足元にも札はない。

(まさか、部屋か更衣室に落としてきたのかな!?)

幸い店を出て時間も経っていないので、すぐに携帯電話で連絡すると、さっきのボーイに店の中を探して貰うよう頼んだ。

程なくしてボーイから折り返しの電話が掛かってきた。

『一万円ですけど、部屋の床に落ちてました。ただ、子供銀行券になってましたけど』

そう言いながら、電話の向こうで笑った。

(子供銀行券?)

突拍子もない言葉に、内容を理解できなかったA子さんは、もう一度聞き直した。

『ですから、一万円札がおもちゃの札になってたんですよ。明日の出勤までには元に戻ってるはずですから明日渡します。今日のところはそのまま帰宅してください』

不思議がる彼女に、ボーイはよく事情を説明しないまま、一方的に電話を切った。

翌日彼女が出勤すると、ボーイは彼女に一万円札を手渡しながら、

「こういうの時々あるんで、なんかあったら連絡してくださいね」

と告げた。

「それで、彼女的には〝良し〟としちゃったみたいなんですが。その後も貰った手当の札が足りなかったり、変な物が代わりに入っていたりすることがあったんだそうです」

特に多かったのは、子供銀行券や薄茶色の紙。ある時は無くなった一万円札の代わりに、青々とした葉っぱが店の床に落ちていたこともあったという。

そういう時、彼女はそれらをボーイに預けて帰るそうだ。

「不思議なことに、一晩店のレジに入れておくと、翌朝には元の札に戻ってるそうで、次に出勤した時に、彼女はそれを受け取るんだそうです」

かつての吉原には多くの花魁たちがいた。その語源は諸説あるが「狐は尾を使って人を化かすが、遊女たちは尾もないのに人を化かすことができる(尾いらん)」とも言われている。当時とはすっかり様変わりしてしまった今の吉原でも、形は変わっても奇妙な化かし合いは続いているらしい。

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