あらゆる意味で怖い話(千葉県) | コワイハナシ47

あらゆる意味で怖い話(千葉県)

紐井君は、死ぬほど運がない男である。

この世の辛酸のすべてを嘗め尽くさんばかりの不運に見舞われ続けている。

「で、今年は何かあった?」

「ええ、私の絡んだ企画はことごとく潰れ、雑誌は廃刊になり、出版社は倒産し、担当編集者は失踪し……ロクなことがありません」

現在、フリーライターとしてあちこちの出版社の仕事を受けている紐井君だが、何故か担当編集者が次々といなくなってしまうらしい。

「そりゃね、私の担当だった編集さんがいきなり小説家にクラスチェンジしちゃったとか、そういうめでたい話ばっかりならまだいいんですけどね。何か、入れ墨関係のお父さんを持つ娘さんと駆け落ちして姿を消しちゃった人とか、血を吐いて倒れてそれっきり会社に来なくなっちゃった人とか、会社にも家にも消息がわからない神隠しにあっちゃった人とか……もうたまんないっすよ」

本気か冗談か「おまえとは組みたくない」とまで言われる始末で、相も変わらず不運ライフを送っているようだ。

その紐井君の最新恐怖譚は、あらゆる意味で怖い話だ。

その頃、千葉のほうにあった紐井君の自宅の周辺は、畑や水田が続く田園地帯にある。……と言えば聞こえはいいのだが、要するに田舎なのである。街灯は暗く、道は曲がりくねって水田の合間を縫うように続いている。

その日、友人としこたま飲んだ紐井君は、水田の横で大きくカーブしている道路の縁で、白い親子連れを目撃した。

「白い親子連れ?何それ」

「いや、何と言うんですかね、アレは。白く輝く母と娘が地形を無視して近付いてくるんですよぉ!」

その白い親子連れは、初めのうちは百メートルくらい先のほうにいた。何しろ田舎なので、間には水田や水路、あぜ道などが横たわっていて、直進できるような道はなかった。

しかも紐井君の立っていた道路は、水田を見下ろすように出っ張った五メートルくらいの高さの高台になっていた。

その白い親子連れは、距離も、地形も、高低差も、すべてを無視して、立ち尽くす紐井君の目前に五秒くらいで接近してきたのである。

「それは怖い。……でも何故逃げなかったの。やっぱり金縛り?」

「いや、金縛りじゃなかったんですけどね。逃げるに逃げられなかったんです」

「何でさ」

「そのときの私は、軽犯罪法に違反していたので、動くに動けなかったんですっ」

そうなのだ。紐井君はいい気分で立ち小便をしていたのである。

ここから先はよくある話で、やっぱりその辺で親子連れの死亡事故があったことが、後になってからわかった。

「しかしですね。たとえ幽霊とはいえ、お母さんと娘さんにそんなものを見られた日にゃ!」

紐井君は心底怖かった。

何度見たって決して慣れない、幽霊の怖さ。

その幽霊が迫ってくるのに、そこから逃げ出せない怖さ。

幽霊に「そんなもの」を見せてしまった怖さ。

幽霊がどう感じたかの怖さ。

「後であの幽霊の親子に、私のナニの大きさを品評されたりしてるんじゃないかと思うと、もう怖くて怖くて。ねぇ、私は悪くないですよね。いや……まぁ、軽犯罪法には違反してましたけどね。やっぱりそれがまずかったんですかね」

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