線路の下(東京都渋谷区) | コワイハナシ47

線路の下(東京都渋谷区)

宮澤さんは渋谷駅のホームで帰りの電車を待っていた。

そのとき、話し声や駅員の放送などホーム特有のざわめきの他に、線路の下から呻き声が聞こえてきた。

「ううううう……」

最近はすぐにキレて赤の他人に殴りかかったり、刺し殺したりなんて事件が頻発している。鼻を折られて血塗れになる喧嘩に出くわすことも珍しくない。怖い世の中だ。

だから、また誰か喧嘩でもして線路に落ちたのかと思った。野次馬根性も手伝って辺りを見回したのだが、どこにもそれらしい姿はない。

「ううううう……」

ホームを見回しても倒れている人や蹲っている人はいないし、ホームの反対側の線路を見ても、怪我をしている人はいないようだ。

しかし、なおも呻き声は聞こえている。それも割と近い所からはっきりと聞こえるのだ。

都会の人間は他人の災難に同情しない。興味がないからだ。しかし、事故や喧嘩といった他人の不幸には、一体どこからこんなに……というほど野次馬が湧いて出ては人垣を作ったりする、はずだ。

こんなにはっきり呻き声が聞こえているのに、誰も気にしないなんて変だ。

「ううううう……」

ふと隣を見ると、宮澤さんと同じように周りをきょろきょろと見回している人がいた。

それは赤の他人だが、宮澤さんと同じように呻き声のする方向を捜しているようだった。

宮澤さんと目が合ったが、その目は「あなたも?」と訴えているようにも見えた。この人も探しているのだ。というより、この人と自分にしか聞こえていないのだ。

轟音とともに電車がホームに滑り込んできた。

どやどやと降りてくる人の波と入れ替わりに電車に乗り込んだが、なおも聞こえる呻き声の出所は結局わからずじまいだった。

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