満員電車(東京都新宿区高田馬場) | コワイハナシ47

満員電車(東京都新宿区高田馬場)

これまで「超」怖い話に怪談を提供してくれた人々には、作家、漫画家、編集者と、出版社勤務かその関係者が多い。もちろん、そういった業界で仕事をしている我々が、同じ業界の知人友人や仕事仲間から聞き拾ってきているものが少なくないのだから、当然と言えば当然かもしれない。

だが、真夜中など一般人と違う時間帯に仕事をすることが多いせいか、宵闇で怖い思いをする出版人は後を絶たない。

栄養ドリンクと眠気覚ましのカフェイン剤を常習するようになれば、編集者も一人前だと言われている。連日の徹夜にも慣れ、そろそろ編集者の生活時間帯が身体に染み着き始めた神溝さんは、その晩も高田馬場にある編集プロダクションで仕事をしていた。

もう三日ほど徹夜が続いていた。

遅れに遅れた最後の原稿をライターから受け取ったのは夕方のことだ。この原稿を朝一で印刷所に届けなければならない。

「仕事に対して情熱を燃やせるのと、仕事のために無理ができるのは若いうちだけだが、そういう無理ができなければ編集の仕事なんぞ務まらないもんだ」

と先輩に唆かされたのが一昨日のことか昨日のことなのかも、あまりよく覚えていない。それほどに仕事に没入していた。

編プロの事務所が入っているビルは、目白通りの近くにあった。窓の外には、青白い街灯に照らされて家路を急ぐタクシーが見える。タバコの匂いの染み着いた空気を入れ換えようと窓辺に立つと、目白通りの横で大きくカーブを描いて通っている線路の上に、黄色い電車が見えた。

黄色い電車はダイヤ調整でもしているのか、ゆっくりと速度を落として駅でもない線路上に停車した。

煌々と照らされた車両の中には、帰路を急ぐサラリーマンが鮨詰めになっている。吊革に掴まって揺られながら折り畳んだスポーツ新聞を開く者や、ドアの近くで文庫を読みふける者、すっかり眠り込んでいる者もいる。

「……日本のサラリーマンも大変だなぁ。編集者でもないのに、こんな夜遅くまで仕事しなきゃならないなんて……」

そう思って時計を見ると、針は夜中の三時を指していた。

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