眼→掌(山口県下関市) | コワイハナシ47

眼→掌(山口県下関市)

下関の九條君から聞いた話。

その晩、九條君は友人の車の助手席に座って下関の国道辺りを走っていた。

対向車も追走車もなく、前方にも一台もいない。絶好のドライブだった。

街から少し外れ、郊外のラブホテルの看板がぽつぽつ見えるくらいの所まで来た頃、バックミラーに光点が二つ映っているのに気付いた。

どうやら追走車のようだ。こちらがそこそこのスピードを出していたせいか、追走車はなかなか抜いていかない。

友人はバックミラーを覗きながら呟いた。

「……たりーよな、ぴったり付いてきやがってよ」

「振りきっちまえばいいじゃん」

それじゃあ、とアクセルを踏み込む。スピードメーターがぐんぐん回って、九十から百を過ぎる辺りでゆらゆらと揺れた。

が、追走車は最初と同じ距離を保って、ぴったり付いてくる。

「きりがねぇよ。抜かせてやろうぜ。どうせ、こっちだって急いでるわけじゃねえんだしよ」

九條君の提案で今度はスピードを落としてみた。

が、追走車はなかなか抜いていかない。

スピードを落とせば、その分向こうもスピードを落とすし、アクセルをちょっと踏み込むと、同じ分だけ向こうもスピードを上げてくる。人気のない郊外の山道で、同じことが何度も繰り返された。

九條君は振り返って、リアシート越しに相手の車を確認しようとした。今走っているのは、割と平坦でまっすぐな道だ。

が、車が全く見あたらない。しかし、バックミラーの中には相変わらず車のヘッドライトらしき光点が映っている。

「……おい、車いないぜ。なんかやべー気がする。もっとスピード出ないのかよ」

友人は脂汗を滲ませながらバックミラーを睨んでいた。

「おい九條、あれ、あれなんだ、あれ!」

言われてバックミラーを覗くと、バックミラーの光点の中に黒いスジが見え始めていた。

まるで猫の瞳のようだ。

友人はアクセルが床に貼り付くぐらい深く踏み込んでいた。公道で出すには少しまずいスピードだ。自分達を追っているのが『追走車』ではないことはもはや明らかだった。

いつの間にか道の左隣にススキ野原が密生していた。

二人とも夢中だった。

空に月のない、新月の晩だった。

ススキ野原を抜けたところで、不意に車のフロントガラスが「バンッ!」と鳴った。

驚いた友人がハンドルを左に切る。車はスピンして、ぐるぐる回って止まる。

「……怪我ないか、九條」

「ああ」

二人が車から降りると、そこは岸壁の端だった。いつの間にか港に出ていたのだ。

フロントガラスを見ると、手形が一つ付いていた。

もし、フロントガラスを叩く手形がなければ、多分そのまま夜の海にドボンだった。

今、自分達が出てきた道を見た。

そこにはまっすぐな道が続いているだけで、あの不気味な目はもうどこにもなかった。

空に月のない、新月の晩だった。

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