囲炉裏(長野県) | コワイハナシ47

囲炉裏(長野県)

「怖い話ですか……」

島田社長から伺うかがった冬山の話である。

何年か前の冬。日本アルプス縦走を目指していた島田社長のパーティは、吹雪を避けるため、とある山小屋で暖を取ることにした。山小屋には吹雪から逃れた何組かの先客がいた。彼らは島田社長達を囲炉裏の側に迎え入れてくれた。

外は零下。そして、この吹雪が止むまではどこにも行けない。だから見知らぬ同士でも同じ囲炉裏を囲めば話も弾む。それが雪山の醍醐味というものだ。

囲炉裏の周りにはその山小屋にいた登山客のほとんどが集まっていたが、そのうち一人はどうしても囲炉裏の側に近付こうとしなかった。

「……あの人、寒くないのかな」

「単独登頂らしいんだけどさ、こちらへどうぞって言っても来ないんだよ」

山屋──登山家には変わり者も多いからということで、その男のことは特に誰も気に掛けていないようだった。

登山家同士の会話は、自己紹介に始まって登山キャリアの自慢に続くのが常であった。登った山、登山回数、苦労話など、ベテランにとっては山自慢、新人にとっては様々な経験を聞く機会でもあった。

「で、テントの周りを雪を踏む足音がサクサク回ってるんだ」

退屈を紛らわせるために様々な話が続くのだが、夜も更け、何人かがうつらうつらし始めた頃には、話題は冬山の怪談に変わっていた。

「そのとき生臭い風が……おい、何か生臭い匂いがしないか?」

話が途絶える。不安を紛らわすため一人が灰をかきまぜる。

……すると、火箸に絡んで灰の中から長い髪の毛が出てきた。灰をつつくと、何本も何本も髪の毛が出てくる。異臭もだんだん酷くなってきた。

「ああ、ああああ!」

そのときだった。囲炉裏に近付こうとしなかった男がおかしな声を上げて、山小屋の外に飛び出していったかと思うと、猛吹雪の中から一抱えも雪を持ち返ってきて、囲炉裏に投げ込もうとした。

ここで暖を失うことは氷点下の雪山での死を意味する。囲炉裏の火を守るため、その場にいた全員で男を取り押さえた。なおも囲炉裏ににじり寄ろうと暴れる男を登山用ロープで縛り上げ、島田社長達は囲炉裏の灰の中を調べてみた。

火箸の手応えを頼りに灰を掘り起こすと、囲炉裏の中から、長い髪が張り付いた人間の頭の皮が現れた。

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