そーそーそーそー(東京都中野区江古田) | コワイハナシ47

そーそーそーそー(東京都中野区江古田)

上京以来借りている東京都中野区江古田にあるアパートは、今は主に僕の事務所兼資料庫となっているが、その頃は自宅として使っていた。

アパートの一階の南西角に位置する、ごく一般的な2DKである。

一人で使うには少々広すぎる部屋だということで、当時は漫画家の友人甘木と共同で住んでいた。

二つ並んだ六畳の部屋とキッチンのうち、奥の部屋を甘木が仕事場として使い、僕はキッチンと甘木の部屋に挟まれた六畳を自分の仕事場兼居間に充てていた。

仕事柄、夜型になりがちなせいか、この部屋は常に不夜城と化していた。

深夜に近い時間になると、住人が必ず起きているのを知っている近所の友人が集まってくる。このため、ますますその喧噪の度合は高まり、家主以外にいつも誰かが部屋にいるのが当然のようになっていた。

ここには僕の友人もよく来たが、時折妙なものが現れた。

一九八九年の夏のある晩のことである。僕は友人の那須本氏と二人でテレビの正面に据えたソファに座り、借りてきたアニメビデオを見ていた。

ひとしきりアニメ鑑賞を終えた後、テープを巻き戻しながらアニメ談義に花を咲かせているときに、それは聞こえてきた。

「今のシーンの演出は宮崎駿なんだよな」

「やっぱり昔のルパンはいいですよね」

「そーそーそーそー」

那須本氏は不意に黙りこくった。

そして玄関を眺め、隣の部屋で仕事をしている甘木を見る。甘木はいつものようにヘッドホンで音楽を聞きながら、僕と那須本氏にはわき目も振らず仕事に集中している。

那須本氏は怪訝そうな表情を浮かべて僕の顔を見た。

「今、誰か来たか?」

「誰も」

「それじゃ、今、俺の耳元で『そーそーそーそー』って言ったのは誰だ」

「え?今の『そーそーそーそー』って那須本さんじゃないんですか?」

同意する声は再び現れた。

一九九〇年の十二月のことである。

普段の来客の多さから、アパートの部屋の鍵はいつも開けられたままになっている。それを心得ている旧知の那須本氏は、いつものように何の遠慮もなく僕の部屋に上がり込んできた。

「加藤!甘木!起きろ!」

いつもなら睡眠時間が異なるため、必ずどちらか一方が起きているのだが、仕事疲れからか、その日は珍しく僕も甘木も同じ時間に眠り込んでいた。

幾度声を掛けても起きそうにない我々に愛想を尽かしたのか、那須本氏は引き連れてきた知人ともども引き上げることに決めた。

「……全く起きやしねえ。人がせっかく遊びにきてやってるのに、しょうがねえ奴らだよ。なぁ、おまえもそう思うだろ?」

那須本氏が、玄関に立って待っていた連れに向かって一声掛け、立ち去ろうとしたそのときである。

「そーそーそーそー」

那須本氏の耳元で、声は再び同意した。

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