触れる(東京都新宿区大久保) | コワイハナシ47

触れる(東京都新宿区大久保)

金縛りに遭って幽霊を見た、という話は意外によく耳にする話である。

そういう状態に陥っているときは何かが自分の上に乗っているような気がするのだが、手足の自由が利かず身動きが取れないため、それを確かめることができない、というのが常である。

自分の目は見えていて、隣にいる人が普通にテレビを見たりしている様が自分にも見えるのに、自分自身は〈何か〉に身体を封じられて動けない。はたまた、横になっている自分の正面に誰かがいるのが目をつぶっている自分によくわかるのだが、もし目を開けたとき、そこに実は凄く恐ろしいものが見えたら怖いから、目を開けて確かめることができない。壁から出てきた白い腕が自分の首をきゅっと絞めて、抵抗しようと思っても身体は動かなくて……等々、所謂いわゆる金縛り体験談は様々である。

いずれも身体の自由を奪われた末に一方的に何かをされるという体験が多く、このときに何も抵抗できないようだが、次に挙げるのはこの束縛者に果敢にも対抗した話である。

浦賀氏が昔住んでいた東京都新宿区大久保のアパートの話である。

当時浦賀氏は六畳一間の部屋で独り暮らしをしていた。漫画にオーディオにと、色々と荷物の多かった浦賀氏の寝床は、開いた押し入れに布団を半分くらい押し込んだもので、ここに下半身を突っ込む形で眠るようになっている。

いつものように押し入れに半身を突っ込んだままうとうとしていた浦賀氏は、誰かに太腿ももをまさぐられる感触に気付いた。

(……な、なんだあ?)

自分は押し入れに下半身を突っ込んでいる。そしてこの部屋には今は自分一人しかいない。ということは……。

(うわー…………)

浦賀氏の下半身をまさぐる腕の数は十数本以上もあったろうか。触られていることに気付いた後も、当たり前のように浦賀氏の腿を触り続けている。

(金縛り……にはなってないみたいだな)

運よくと言うべきか、浦賀氏は自分の手が自由であることに気付いた。その他の部分はわからないが、とにかく腕だけは自由になるらしい。

(ということは……もしかしたら……)

浦賀氏は自分の腿に向けて、そろそろと腕を伸ばした。十数本の腕はなおも浦賀氏の腿をまさぐり続けている。

(せぇのっ!)

浦賀氏は下半身を触っている腕のうちの一つを思い切り掴んだ。

掴めた。

そのとき、わさわさと騒々しく浦賀氏の下半身をまさぐっていた十数本の腕は、一斉にその動きを止めた。

誰もいないはずの部屋で押し入れの中から自分の下半身をまさぐる腕の代表と握手を交わしたわけである。その腕は確かにしっかりと触ることのできる〈何か〉だった。

なおも力を込めて握りしめると、不意にそれまでの腕の感触がかき消すように霧散した。

そのときには、十数本の腕もなくなっていたという。

枝原君はもっと乱暴な方法で抵抗した。自室で眠っているとき、不意に「誰かが自分の上にのしかかっている」のを感じた。

(重いし、身体は起こせないし、自由になるのは……)

枝原君の場合も腕だけが自由に動かせるようだった。もっとも、枝原君の場合は意識を集中させることによって、自力で無理矢理動かせるようにしたのだが。

以前は実体のないものは見ることができても触ることはできなかった。だが、腕に意識を集中させることによって触れないものに触れるということを覚えた枝原君は、昨今では実体のないものに触るくらいはお手のものとなりつつある。

(ちくしょー、人が黙ってりゃいい気になって、俺の上に乗っかりやがって……)

いつまで経っても気配が自分の上から降りていかないのに業を煮やした枝原君は、実力行使で気配をどかせることを決意した。

動かすことのできる左手に意識を集中させる。そして、のしかかる気配を思い切り殴り付けたのである。

「うりゃ!」

手応えあり。

何かを殴った感触が確かに伝わってくる。

「どーだ、わはははは!」

こうして、勝ち誇る枝原君の上からのしかかる気配は消え去ったのである。

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