歓楽街の忠告(愛知県名古屋市某所) | コワイハナシ47

歓楽街の忠告(愛知県名古屋市某所)

監督のN氏は十年以上前、名古屋を舞台にしたヤクザ映画を撮影することになった。

N氏は、定番の観光名所とは別に、名古屋らしい風景を撮ることにこだわって、ある歓楽街での撮影を希望した。

しかし、そこは通常ではめったに許可が下りない場所だった。ロケハンをしている最中にも、コンパクトカメラを建物に向けるだけでも、コワモテのお兄さんが近付いてきて、「あんた、許可撮っているの? どこの会社?」と執拗に尋ねてくる。

それでもN氏はなんとかこの場所で撮ろうと、スタッフと話し合い、ゲリラ撮影を行うことにした。

プロデューサーからは猛反対されたが、何かあったら自分が責任を取ると言って、俳優、スタッフを説得した。

撮影は小型のハンディカメラ。俳優も道を歩いてアドリブに近い会話をするだけの一分程度のシーンだ。それでも、ふだんはなかなか撮れない風景を映像に収めることで臨場感を出せればと考えていた。

これならなんとなるだろう。N氏は確信した。

しかし本番直前になると、どこで情報をつかんできたのか、やはりコワモテのお兄さんたちが周囲に続々と立ち始めた。

「お願いだ。これはやめた方がいい」

焦るプロデューサーからしきりに撮影中止を説得されるが、N氏にも意地があった。

最後は撮影監督に「撮影中、自分がもしも事務所に連れて行かれたら、その間にうまく最後まで撮ってください」と伝えた。

いよいよ時間となり、N氏が撮影を始めようとした時、一人の初老の男が彼に近付いた。

N氏は彼が以前にもコワモテのお兄さんたちの傍らに立って、見守っていたことを思い出した。おそらく彼も堅気ではないだろう。

男はN氏の前に立ち、案の定「どこの会社? 許可取ってる?」と尋ねてきた。

N氏は(参ったなあ……撮影が始まる前にアウトかよ)と思いながら、返答に困っていると、ふと男はN氏の肩や首をじろじろと見て「ああ……あんたなら、いいよ」とうなずいた。

N氏はきょとんとして男を見た。

男はにやっとして「あんた、自分の背負っているものを大切にしなよ」と肩を叩くと、周囲に立っていたコワモテの兄さんたちを引き連れて、去っていった。

N氏は何が起きたのか理解できないまま、それでも千載一遇のチャンスと思い、一気に撮影を行った。

「あの時……男が言ったこと、今でもはっきり覚えているんですけどね。未だに自分が何を背負っているのか、さっぱりわからないんですけど……」

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