ミニシアター(愛知県名古屋市中村区) | コワイハナシ47

ミニシアター(愛知県名古屋市中村区)

名古屋の老舗ミニシアター、シネマスコーレがオープンしたのは、Jさんが高校生の時だった。

当時の名古屋には、洋画を上映する名画座やミニシアターはあったものの、東京で話題になっているマニアックな邦画はよほどのヒット作でない限り、名古屋での上映はされなかった。新しくできるシネマスコーレがそれらの作品をカバーするとの噂で、地元の映画ファンの間では大いに期待が寄せられていた。

おまけにこの劇場は、Jさんが通っていた予備校のビルにほど近い場所にあった。これはちょうどいいと思いつつ、実際には予備校街から少しはずれて、飲み屋と共に風俗店が並び、ビルの路地裏にはいわゆる〝立ちんぼ〟のお姉さんがいるようなエリアにあった。

一足早く劇場に行ってきた人によると、最初は必ず道で迷うそうだ。

高校生の女子一人で大丈夫かな? Jさんは初めての映画館へ行くという好奇心と共に一抹の不安も拭えなかった。

ほどなくしてJさんは、当時ファンだった寺山修司の映画が上映されると聞き、シネマスコーレを訪れる決心をした。友達は「えーっ? 寺山修司?」と敬遠されてしまったため、一人で行くしかなかった。

予備校の授業を終え、外に出ると、すっかり日が暮れていた。

予備校街を抜け、事前に確認した地図の通り、風俗街へ踏み込む。さすがに学校帰りの制服姿だけに補導されないか、変な男に声をかけられないか、Jさんも緊張したが、辺りは思いの外、人の姿もまばらで閑散としていた。ただ、風俗店の呼び込みの男性にまじって、確かにビルの片隅に、派手な服装のお姉さんが無言で一人立っているのを見ると、(ああ、やっぱりそういう場所なんだ)と実感し、なるべく彼女たちと目を合わせないようにした。

あまりきょろきょろもできない場所柄だけに、肝心のシネマスコーレの場所がよくわからない。当時はスマホのような便利なものもなく、事前に情報誌で確認した住所と地図だけが頼りだった。

周辺は風俗店の他、派手な看板の飲み屋がひしめき、普通の映画館のように、一目でわかる映画の看板が掲げられていることもなかった。

いったいどこにあるの? シネマスコーレ……。

途方に暮れていると、向かいの道を老夫婦らしき男女が歩いて行った。

これから飲み屋に行くような雰囲気でもないし……ひょっとして……。Jさんはすがる思いで二人の後を付いていった。すると前方の雑居ビルの壁に、小さな「シネマスコーレ」の看板を発見した。

よかった……やっぱり映画館に行くんだ。Jさんは老夫婦の後を追い、看板のあるビルの階段を上がった。そして老夫婦が入ったと思われる二階のドアを開けた。

あれ……映画館のロビーにしてはちょっと受付が狭いな……。しかも老夫婦の姿はなく、ボーイ風の衣装の青年が戸惑うように現れた。

Jさんは青年に「あの、ここ映画館……」とたずねた。

しかしここは風俗店の受付で、シネマスコーレは一階だった。

Jさんは顔を真っ赤にして「す、すみません」と声を小さくして頭を下げ、ドアを閉じた。

急いで階段を下りて外に出ると、ビルの一階の壁に、寺山修司のポスターが貼られ、小さな映画館の入り口がようやく目に止まった。

どっと疲れが出ながら、なんとか無事に映画の鑑賞を終えることができたJさんは、初老の劇場主に、間違って二階に行ってしまったことを打ち明けた。劇場主は笑いながらも「わかりにくくてごめんないさいね」と言った。なんとなく緊張がほぐれたJさんは、後を付いていった老夫婦のことも話した。

すると劇場主は首を傾げながら、こう言った。

「たぶん……それは年配の立ちんぼさんじゃないかな。お客さんも同年代でね。昔はこのビルの上に、連れ込み旅館というか安ホテルがあって、そこを使っていたんだよ。でも、かれこれ二十年ぐらい前の話だし、もう最近は見かけなくなったと思ったけど」

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