三角の家(愛知県某市) | コワイハナシ47

三角の家(愛知県某市)

都市伝説的な噂から〝最凶の心霊スポット〟と言われたのが「三角の家」だ。「○○○(地名)の家」「三角屋敷」「イエロー・ハウス」など様々な名称で知られている。

名古屋駅から車で一時間とかからない郊外のベッドタウン。そこに長く放置された廃屋がある。

比較的交通量の多い幹線道路沿いの、三角形の土地に建つ、郊外では珍しい、いわゆる狭小住宅。カラフルな外観から想像が付かないが、以前から「最初に住んだ夫婦が心中した」、「買い手が次々と不幸になって手放す」、「現場を訪れた警官が精神に異常をきたした」など、ホラー映画も顔負けの恐ろしい噂が絶えなかった(あくまで噂だが)。

契約上の都合か、長い間取り壊されもしないため、肝試しで訪れる者も後を絶たず、地元では知らぬ者はいないという、正真正銘の曰く付き物件だ。

私も昔、テレビの仕事で名古屋郊外を訪れた際、車に同乗したディレクターから「この近くに有名なお化け屋敷があるんですよ」と教えられた。

「それって三角の家ですか?」

「よくご存じですね」

「ええ、全国的にも有名ですよ」

「じゃあ、ちょっと寄ってみますか?」

ディレクターは軽い口調で行き先をナビに指定した。彼は以前にも何度か行っている様子だった。

しばらく車を走らせると、やがてナビが目的地を伝える。その家は遠くからでもすぐに見分けが付いた。夜九時を過ぎても車の往来は激しく、周囲にはアパートや一戸建て住宅の他、企業の工場、コンビニも並ぶ。そんな賑やかな場所だけに不気味さはそれほど感じないはずが、その三角の土地の一帯だけ一種独特のオーラを放っていた。

近くの空きスペースに車を止め、道から家を覗いた。庭には雑草が茂り、玄関のガラスや窓はほとんど破壊されている。中に侵入するのは容易だったが、あくまでテレビ局の仕事の帰りだけに、不法侵入で警察に通報されたら、言い訳のしようがなかった。

実際、付近では警察がパトロールを強化しているとのことで、この時は中に入るのはやめることにした。ちなみに帰り道、私やディレクターを乗せた車が、カーナビの通りに進んでも、何度も道に迷ってしまい、その度に、この三角の家の付近に戻ってしまったことは単なる偶然と思いたい(ディレクターは「おいおいおい!」と興奮して喜んでいたが)。

さて、そのディレクターと数年ぶりに打ち合わせる機会があったが、そこでもまた「三角の家」の話題になった。ディレクターはその後も何度か家への正規のテレビ取材を試み、地元の不動産屋や関係者と交渉したという。しかし様々な事情から結局、許可が取れず、取材を断念していた。

そんな時、噂を聞きつけたのか、あるビデオ関係者から「三角の家に潜入取材した動画があるけど買わないか」と相談された。

ただ、三角の家への潜入動画そのものは今や珍しいものではなく、前述の通り、家に行くことも入ることも容易で、実際に違法な潜入動画はYouTubeなどに多数投稿されている。そのことはディレクターもよく知っていたものの、「でも、その関係者曰く、ビデオには『本物の幽霊が写っている』というんだ」

これまた眉唾で胡散臭そうな〝関係者〟だが、ディレクターはやはりビデオが気になり、アポを取った。

指定されたカフェに行くと、四十代ぐらいの末端の業界人といった風貌の男性が現れ、ノートパソコンで問題の動画を見せてくれた。サンプルのビデオやディスクを渡さないのはコピーを警戒しているのだという。どんな凄い映像なのかと期待に胸を膨らませ、ディレクターはパソコンの画面に目をやった。

映像は夜、三角の家の前から始まる。車の通行量が少なめということは深夜だろうか。登場したのは、三十代ぐらいの細身の男性と、カメラマンを持つ男性らしき二人組。ビデオカメラには小型のライトが取り付けられ、カメラワークも安定していた。ディレクターは動画を一目見て「プロの仕事」と察した。

映像の男性は、壊れた玄関から中に入り、カメラがその後に続いた。

荒れ放題の台所やトイレなどをチェックするが、これらは素人の他の投稿動画と代わり映えしなかった。男性は心霊スポットに来ているのにあまり怖がっている様子もなく、淡々と中を歩いている。プロならもう少し演技でも、なんとかならなかったのだろうか? ディレクターも首を傾げた。

元々、狭い物件なので見るべき部分もあまりない。男性とカメラは階段から二階へ上がる。二階は二部屋しかなく、最後にお決まりというべき〝血の付着したマットレス〟(おそらく誰かがいたずらで付けたのだろう)を発見する。その時、男性が「ん?」と顔をしかめ、ベッドの下を覗く。カメラも続くと、ベッドの下には髪がぼさぼさの女が隠れていて突然襲いかかると、男性とカメラマンは「うわああっ!」と絶叫し、カメラが激しくぶれ、ノイズまみれになってエンドとなった。

…………。ディレクターはリアクションに困ってしまった。レンタル店に並ぶ安手の「呪いの心霊投稿動画」でももう少し怖く見せられるだろう。カメラワークはプロだが、おそらくこの手の心霊物の動画には慣れていないのではないか。

ディレクターはこのビデオがどういう経緯で手に入ったのか、たずねたが、関係者は「あるメーカーから頼まれた」の一点張りだった。

関係者いわく「このベッドの下の女以外にも、室内を移動中の暗がりの中に、いくつかの顔が確認できる」と言う。実際にその部分で画像を静止すると、たしかにそれっぽい顔がぼんやりと浮かんでいる。

「ただ、これも光の反射がそう見えるだけかもしれないし、他のスタッフが映り込んでいる可能性もあるからね。一昔前ならともかく、今時このレベルじゃ商売にならんでしょ」

動画の買い取り価格を聞くと、想像以上の高額を要求され、結局購入は見合わせた。その後、この動画がどこかで放送されたり、ソフト化されたという話は聞かない。

「あんなベッドの下の幽霊じゃ、深夜のバラエティでも相手にされないだろうからね。あと、ただ撮っているだけで、廃屋の探索という緊張感が余り感じられないから、素人の投稿動画の方がまだマシだよ。でも逆に何で、こんな動画をプロが作っているんだろうって、そこが気になった。たぶん何か事情があるはず」

ディレクターが注目したのは、ベッドの下に隠れていた女だ。

「決して美人じゃないけど、妙な色気があるっていうか、そそられる顔立ちだったんだよ。サンプルはどうしてもくれないって言うから、とりあえず会社の会議にかけるために幽霊の顔だけでも撮らせてくれって、無理に携帯のカメラで画面を撮った」

その画像を見せてもらった。たしかに〝幽霊の顔〟は決して美人ではないが、印象に残る。もちろんこれが〝本物〟の可能性もあるが、あまりにも鮮明すぎて怖さや不気味さはほとんどない。ただ女がベッドの下に隠れていただけだ。しかも、この画像では、顔のアップしか撮れておらず、本当に三角の家の中で撮影されたのかもよくわからなかった。

「でも、この子、どっかで見たことがあるんだよね」

じゃあ、アイドルか女優でもしているのだろうか。

「うん、だから、複数の知り合いに画像を添付してメールで聞いてみたんだ。そうしたら一人から『彼女ならAVで見たことがある』って。で、教えられた企画物のビデオを見たら、たしかに彼女だった。……つまり、これも企画物のAVの撮影だったんだろうね。さしずめ男性は相手役の男優。それなら心霊物なのに、全体的にやる気にない芝居やカメラワークもうなずける」

AVと心霊動画は意外と密な関係にある。例えば、廃墟や心霊スポットにAV女優が行く企画は根強い人気がある。

「おそらく三角の家を探索するうち、幽霊に遭遇して、そのままやっちゃう……みたいな筋書きなのだろう。実際にHをしているシーンは、俺は見ていないから、どこまで撮ったかわからないけど、いずれにせよ、何らかの事情でお蔵入りになって、心霊動画として売れないかと考えたんだろう」

数年前には、インディーズAVに映り込んだ白い女の幽霊も話題になっただけに(結局、あの幽霊も共演の女優という説が強いそうだが)、同じように商売にならないかと考えたのか。

「俺もこりずに、せっかくだからその女優に話を聞こうと思って、探したんだけど……調べたら彼女、自殺したみたいだね。そんな有名な子じゃないから、あくまでネットの噂だけど。そもそもAV女優の自殺や変死自体は珍しくないから、無理に三角の家と結びつけるのも不謹慎なんだけれど……」

女優が自殺。曰くありげな場所でHなシーンを撮った後に精神が不安定になることは珍しくないと聞いたことがあった。そう考えると、関係者の言う「他にも写っている」というのが気になるが、そのビデオを売り込んだ人物も今は音信不通なのだという。

「正直、俺は心霊現象や心霊スポットはネタとしては好きだけど、そんなに信じているわけじゃないからね。あの三角の家にしても、結局、奇妙な外観から噂に尾ひれが付いて、収拾が付かなくなったと思うんだ。それらの真偽を確かめる意味でも、一度ちゃんと取材をしたいところなんだけど……」

問題の家自体も最近ようやく取り壊されたという噂だ。

最後に目撃してからもう十年近く経つが、この土地を再度訪れる機会には恵まれていない。

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