尼ヶ坂と坊ヶ坂(愛知県名古屋市東区) | コワイハナシ47

尼ヶ坂と坊ヶ坂(愛知県名古屋市東区)

名鉄・瀬戸線の尼ヶ坂駅の近くには二つの坂がある。

一つは「尼ヶ坂」、もう一つは「坊ヶ坂」。

二つの坂には悲恋の伝説が残され、それが名前の由来となっている。

かつてこの地の村娘が武士と恋に落ち、男の子を産んだ。しかし身分の違いから、二人の仲は引き裂かれ、女は尼となったものの、やがてある雨の日、坂道にある杉の木に首をくくって自殺した。男の子も近くの片山神社の杜をさまよい、餓死したという。

こうして尼が死んだ坂を「尼ヶ坂」、男の子が亡くなった坂道を「坊ヶ坂」と呼ぶようになったといわれる。

悲恋の伝説地として「尼ヶ坂公園」も整備される一方、地元では昔から「幽霊坂」とも呼ばれ、心霊スポットとして有名だ。

私も過去に一度、仕事で二つの坂を訪れたことがあった。

名古屋の中心地、栄からもほど近い閑静な住宅地。マンションも並び、公園には児童遊具があって親子でにぎわうなど、心霊スポットとはおよそ無縁の雰囲気だ。

ただ、二つの坂の起点となり、伝説の舞台でもある片山神社を訪れると雰囲気が一変する。七〇九年創建という歴史ある神社は深い森に包まれ、独特の張り詰めた空気が漂い、圧倒されるものがあった。

また、現在は当時の面影があまり残っていない「尼ヶ坂」とは対照的に、神社に隣接した「坊ヶ坂」は道幅も狭く、左右をうっそうとした木々と石垣に囲まれ、なる程「幽霊坂」と言われるのも納得の雰囲気を醸し出していた。

とはいえ、私が二つの坂を回った限りでは、特に不可解な現象を体験することもなかった。また、複数の地元の人に話を聞いても同じだった(心霊スポットであること自体知らない人もいた)。

あくまで伝説は伝説か……と思っていたが、ひょんなことから坂道にまつわる、ある証言を入手することができた。

十年以上前のこと。東区に住む主婦Uさんはたまたま尼ヶ坂駅の付近で用事があり、車で出かけた。

その帰り道、おそらく「坊ヶ坂」と思われる狭い坂道を通った。

当時は雨で視界が悪く、ワイパーを作動させながら、想像以上に狭い道に戸惑い、ハンドルを握っていると、突然、頭の後頭部に鋭い痛みが走った。

……なんだろう……。Uさんはいぶかしく思いながら坂道を下り、車を止め、後頭部に触れた。

見ると、手のひらにはべっとりと血が付いていた。

Uさんは驚いて、近くの病院に駆け込んだ。

検査をすると、後頭部の頭皮に、半径十センチ程の何かがぶつかったような傷跡ができていた。しかしUさんが痛みを覚えたのは、坂道を下っていた車の中である。そんな傷を負うような行為をしているはずもなかった。

医師は首を傾げながら、傷跡を調べて、こう言った。

「数センチの傷がぽつっぽつっと並んでいます。それがまるで歯形のように見えるんです。子供の歯形……まるで噛みついたように……」

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