教室でのお漏らし(愛知県名古屋市熱田区) | コワイハナシ47

教室でのお漏らし(愛知県名古屋市熱田区)

「……あっ……」

D氏は六十年以上経った今も、隣の席の女の子のうろたえた声が耳に焼き付いて離れなかった。

D氏がその声に気付いて振り向くと、女の子は窓の方を見たまま呆然としていた。直後、そのスカートの中からしゃーっとかすなか水音が聞こえたかと思うと、イスから左の足を伝って、床に液体があふれた。

女の子はイスに座り、なすすべもなくただ自分がお漏らしをした事実を受け入れるしかなかった。イスからぽたぽたと滴が垂れていた。

周囲や教壇の担任も気付いて、彼女を保健室に連れて行った。周囲の女子達は慣れた様子でロッカーから雑巾を取り出し、床の液体を黙々と拭いた。

二学期になって、これで二人目だった。一学期も四人の子が尿を漏らした。他のクラスでは、うっかりお漏らしをする子はせいぜい一人ぐらい。明らかにこのクラスだけが異常だった。

母親によれば、PTAでも以前から問題視されていていたという。昔から、この教室だけが異常にお漏らしをする人が多いのだ。

教室が何かに呪われているんじゃないか? 親たちからは冗談のように指摘されて、学校側も仕方なく教室内でお祓いをした。しかし効果はなく、お漏らしをする子は後を絶たなかった。

D氏も他の同級生と同様に、いつ自分がお漏らしをするか気が気ではなかった。

でもどうしてうちの教室だけ……。納得がいかなかった。何かこの教室だけの法則があるんじゃないのか……。

D氏は今日お漏らしをした女の子の様子を振り返った。

「あっ……」とうろたえた声を上げた時、女の子は窓の外を見ていた。

D氏は窓に顔を向けた。外には里山の山肌が見え、中心に今は使われていない防空壕が見えた。

次の瞬間、得体の知れない悪寒がD氏の全身を貫き、体がぶるぶると小刻みに震えた。頭上で爆撃機の音が生々しく蘇った。

「ええっ……」

恐怖のあまり緊張がピークに達した時、どくんと下腹部が波打つようにうずいて、ジーンズの中で放尿が止まらなくなっていた。

保健室で着替えた後、D氏は担任の女教師に外の防空壕が原因じゃないかと伝えた。

戦時中、防空壕で息を潜めて隠れている間、爆撃の恐怖にさらされ、思わずお漏らしをしてしまう子は少なくなかった。

その封印された体の記憶が、この教室で蘇ってしまうのではないか。

教師は半信半疑だったが、事実、防空壕が窓から見えるのはこの教室だけだった。

「わかった。でも、それなら大丈夫よ」

担任によると、元々あの防空壕は中に入ると危険なので、近く板を打ち付けて入り口の穴を塞ぐという。

その作業が始まってから、教室でのお漏らしの現象はぴたりと止んだという。

「うーん……せっかく原因を突き止めたのに、結局、何の役にも立たないまま、僕が最後のお漏らしの被害者になったのが、なんとも悔しくてね」

D氏は納得がいかない顔でぼやいた。

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