真夜中の訪問者達(長野県 軽井沢) | コワイハナシ47

真夜中の訪問者達(長野県 軽井沢)

夜中の二時くらいになると、野村さんのアパートのドアを叩きにくる者がいた。

最初のうちは大して気にも掛けなかった。酔っぱらいの学生の仕業とするなら『毎日』というまめなところが気に入らないが、他に実害があるわけでなし、少々の不快さを我慢すれば、それで済む問題だとそのときまでは思っていた。

バブル真っ盛りの頃、野村さんは帰宅が深夜に及ぶことが連日続いた。

着替えもそこそこにベッドに倒れ込んで、うとうとしかけた頃にいつものドアを叩く音が聞こえてきた。

「あたし、こんなに疲れてるのよッ!」

疲れが溜まっていたせいもあって、日頃の鬱うっ憤ぷんが噴出した。

アパートのドアのすりガラスに白い人影が映っているのが見えた。

どうやら女のようだ。しきりにドアを叩き続けている。

野村さんは業を煮やしてドアを開いた。

「ちょっと、いい加減に……」

そこには誰もいなかった。

ノブを握りドアを開ける寸前まで、ドアを叩き続ける音がしていたにも拘わらず、辺りには人影もなく、階段を駆け降りていく音も聞こえなかった。

こんなこともあった。

車の運転席でタバコに火を点けようとしたら、足元にライターを落としてしまった。オイルライターだったので、蓋を閉めないと火は消えない。

野村さんは慌ててシートとアクセルの間を覗き込んだのだが、ライターが見つからない。

どうやら火は消えているようなのだが、ライターそのものがどこにもないのだ。

不審に思って車を降り、運転席の周辺や助手席に至るまで捜しまわったが、一向にライターが出てこない。

「結構お気に入りのライターだったのよねぇ」

深夜、夏の軽井沢に遊びに行った友達から、野村さんの家に電話があった。

「今、電話ボックスから掛けてるんだ」

泊まっている民宿の電話が空かないらしく、外の電話ボックスまで出てきたらしい。

東京の様子や軽井沢の快適さなどをひとしきり伝え合っているうちに、相手が急に怖がり出した。

「どうしたの?」

「誰か近付いてくる!」

「だって外から掛けてるんでしょ?順番待ちの人なんじゃないの?」

生唾を飲み込む音が受話器越しにはっきりと聞こえた。

「軽井沢には、こんな夜中にウェディング・ドレス着て電話ボックスに来る奴がいるのか?あああ……こっちに来る、来るな!」

錯乱状態になりつつあるようだった。

「ちょっと?ちょっとしっかりしてよ!どうしたの!」

「戻ってきた!ウェディング・ドレスを着た人が……この電話ボックスの周りをぐるぐる回ってる……!あああ、こっちを見るなっ!」

「もしもし、もしもし!」

それっきり電話は切れてしまった。

彼は受話器を握りしめたまま倒れているところを、朝方やってきた仲間に見つけられた。

その場で失神してしまっていたらしい。

彼がウェディング・ドレス以外に何を見たのかは、今も教えてくれない。

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