病院の女 その2(神奈川県伊勢原市) | コワイハナシ47

病院の女 その2(神奈川県伊勢原市)

いつの間にか眠りについてどのくらいたったのでしょう。

ふと目が覚めて、いつもと違う風景に一瞬ここがどこかわからなくなります。

(あ、そうだ、ここはおうちじゃなくて病院だ)

思い出してふと横を見ると母がいません。私を抱いて寝ていたはずの母がいません。

(お母さんどこ行ったのかなぁ)

と辺りを見渡してもいません。不安な気持ちが湧き上がってきたその時、私の目の前に知らない女性の顔が浮かび出てきたのです。

それは、生首のように顔だけがぼーっと宙に浮いており、こちらを睨むようにしてじーっと見つめています。

(ワーーーーー!!)

叫び声を上げようとしても、声が出ません。

(助けてーーー助けてーーー)

言葉を変えても声が出ません。

(お母さん……)

母を呼ぼうにも、どうしても声が出ません。次は、この場から逃げ出したくても、体が動きません。手さえ、手の指さえ動かないのです。今思えばこれが世に言う「金縛り」というものだったのですね。そんな状況でも、母を呼ぶ声だけは必死に出そうとしました。

(お母さん……お母さん……)

「お母さん」から

「オ カ ア サ ン……」

になっていく感覚。

そんな私の姿を、顔だけの女性がじーっと見つめているのです。

昼間見た女性の顔とは違ってハッキリ顔全体がよく見えます。目は細くつり上がり、顔色は浅黒くオデコを出した髪型で少しウェーブがかっているようにも見えます。

それより何より恐ろしいのが、女性の顔周り全体に、緑色と赤色と黒が混ざった煙のようなものがグルグルとうずを巻いていたのです。

私は、女性の瞳から目を離せずにいました。見つめ合ったまま、そのおどろおどろしい煙の中に飲み込まれてしまうような恐怖に、ただただ心の中で

(お母さん助けて、お母さん早く来て)

と叫び続けることしか出来ませんでした。

その時、少しだけ開いていたドアから、薄明かりがさし、母が帰って来ました。

「お母さん!!」

と、母が見えた瞬間に声が出ました。

「お母さん……お母さん……」

私は、堰を切ったようにわんわん泣き出しました。ようやく泣くことすら出来たという感じです。

「どうしたの?」

自分の姿を見たとたんに泣き始めた私にビックリして、そんなことを聞いたのですが、母にすがりついて泣くことだけで精一杯の私に、状況説明をする余裕はありません。

抱きついてひとしきり泣き、気持ちが落ち着いてきたのでさっきの出来事を母に伝えました。

「女の人の顔があったの。さっきお母さんが居ない時に目の前に女の人の顔があってじっと私のことを見てたんだよ。怖かった」

「それでね」

今度は堰を切ったように話し始めます。泣いたり話したりと忙しいですが、とにかく聞いてもらいたい。

母なら私の話を、

「どうせ怖い夢」

なんて思わずに、聞いてくれるとわかっていたからです。

「それでね、変なね、緑と赤と黒の煙みたいのが、ぐるぐるぐるぐるいっぱい、いっぱいあって怖かった」

次は手ぶりも入れて説明します。

「そうか、そうか、怖かったね。ごめんね」

と母は頭をなでて話を聞いてくれたので、

「昼間も見たの女の人。振り向いたら居なかった」

と、ようやくあの恐ろしい出来事も話すことができたのです。そして、私の話を聞いた後、母はバッグからお数珠を取り出し、何か念仏を唱え始めました。私はその姿をポカンと見ていることしか出来ませんでしたが、とても安心した気持ちになり、また眠りにつくことが出来たのです。

この出来事は、母がトイレに行っていたほんの5分くらいのことでしたが、恐怖の5分間でした。私の目の前に現れた女性は、昼間見た女性と同じ存在なのかわかりませんが、確実に私がひとりになったわずかな隙を狙って現れました。母はよく言いますが、霊を祓うことの出来る自分の前には霊が怖がってなかなか姿を見せない、と。

もしかしたら、私がちょくちょく病院に姿を見せていた時からもう、私に目を付けていて、母の離れた隙を狙って現れたのかもしれません。

余談ですが、あの時一緒に眠っていた祖母の枕の下にはお数珠が敷いてあったそうです。それは、霊感が強く霊媒体質の祖母のために母が用意したものでした。

入院することになると必ず、お数珠を敷いて寝ていたようです。

その後、私自身も入院することが何度かあったのですが、同じくお数珠を枕の下に敷いて眠りました。

祖母が退院した後は、そのM病院に行くことはなかったのですが、20年近く経って久しぶりにまた祖母と訪れたのです。新しく建て直しをしたようで、すっかり綺麗になっていて、あの頃と比べたら薄暗くどんよりとした雰囲気がなくなったような気がしました。

地縛霊などは、その建物を壊して新しくすると居なくなるなんて言います。

もう二度と会いたくないので検証するようなことはしませんでしたが……。

6歳の時からこのような出来事を皮切りに、私はいろいろな霊体験をすることになるのです。

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