十国峠 車にへばりつく男(神奈川県箱根町) | コワイハナシ47

十国峠 車にへばりつく男(神奈川県箱根町)

これまでご紹介した通り、私の母は霊感がとても強く、また私と同じく幼い頃から数々の霊体験をしているのですが、そのような霊感の強い家系である祖母と母と私の伯父と家族で体験した心霊現象をお話しします。

母がまだ10代の時のこと、年末に祖母の実家である伊豆に帰省しようと、当時住んでいた鎌倉から祖母と母とで向かうという話になって、ちょうど母の義理の兄である伯父も伊豆出身なので、

「帰るんだったら一緒に車で連れてってやるよ」

ということで3人で行くことになりました。

年末の帰省ラッシュと重なって道が相当混んでいるだろうと昼間に話し合って、夜中の12時頃に家をでる計画を立て出発しました。

「そう言えばさぁ、ちょうど最近見た週刊誌に十国峠におばけが出るなんて書いてあったんだけど、そこを通ってみない?」

若さゆえの好奇心もあり、母は祖母達に提案しました。

「そうなの? それじゃ十国峠を通る道で伊豆に行こうか?」

祖母も旅行がてらなんて気持ちもあり、なんの気なしに十国峠を通るルートで伊豆に向かうことに決定したのです。

1時間半くらいで十国峠についたのでしょうか、十国峠の道は新道と旧道に分かれています。

「こっち、旧道の方に行ってみようよ。こっちの方が早く着きそうだし」

という伯父さんの言葉に、

「えっなんかこっち危なそうじゃない? 道も狭そうだよ」

と、母が不安を口にすると

「危なそうだったら引き返してくればいいんだし」となって旧道を進むことにしました。

旧道は灯りもなければもちろん整備されていない山道という感じで、でこぼこの道を登って行きます。

「ほら、やっぱり道もだんだん狭くなってきたし、もしかしたら行けないんじゃない? 引き返そうよ」

「大丈夫だよ。もう少し行ってみよう」

そんな会話をしていると、目の前から1台の車がやって来ました。

本当に狭い道で、車1台通るのがやっとでしたが、なんとか対向スペースを利用して男性ひとりが乗っている車と行き交うことが出来ました。

「すみません。この道は真っすぐ行けますか?」

伯父さんが、対向車のドライバーに尋ねたら、

「行けますよ。このまま真っすぐ行ってください」

と答えてくれたので、そのまま引き返さずに行くことにしたのです。

しばらく進んでいると、伯父さんが、

「あれ? なんかあそこに灯りが見えない?」

と前の方を指差して言いました。

「どこどこ? あ、本当だぁ。なんか赤っぽい丸い大きな灯りが見えるね」

と後部座席に乗っていた祖母も同じ方向を指差します。

「ほら、何だろうあれ。見に行ってみようよ」

「え? 何言ってるの? みんな」

急に不思議なことを言い出した祖母と伯父さんに、母は困惑しました。母には灯りは見なかったからです。

「そうだね。見に行ってみよう」

と、突然、車をその場で止めて2人で歩き出してしまったのです。

「ほら、あこちゃんも見てみなよ。あそこ。大きくて綺麗だよ。あそこ。あそこ。なんか呼んでるようだよ。来なさい」

と、祖母が手招きをします。その瞬間、

「見るな! 見るんじゃない!」

と言う声が母に聞こえてきたそうです。

母は声に従い、パッと前方から顔を背けて目を瞑りました。

その間も、祖母と伯父さんは、その灯りのある方へ導かれるようにズンズン歩いて行きます。

「行くなーーーー! 行くんじゃないーーー!!」

母はドアを開けて力いっぱい2人に叫びました。

「何やってんのダメーー!! 行っちゃダメーーー!! 戻って来てーー!! わーーー!!」

一心不乱に、もうそれは錯乱状態で自分でもわからないくらいに叫んだそうです。

その声に驚き、ふっと我に返った2人は足を止めました。

2人が前を見るとそこは、崖でした。あと、2、3歩前に進んでいたら、崖から転落していたのです。

そう。その大きくて赤くて丸い綺麗な灯りは宙に浮いていたのです。その状況に青ざめた2人は走って車に帰り、すぐ車を発車させようとしたのですが……。

ガシャン……ガシャン……

何度キーを回してもエンジンがかかりません。

「エンジンがかからない、おかしい。おかしい。早く早く」

伯父さんは半ばパニック状態で何度もキーを回してようやくエンジンがかかり、車を発進させることが出来ました。その一本道をとにかくまっすぐ、一刻でも早くこの場から離れたい、とスピードを上げて進みます。

車内は静まり返っていました。誰もしゃべろうとはしません。そうしていると、

「重い、重い、車が重いんだ」

ハンドルをにぎっている伯父さんが汗を流しながらそう言うのです。

「おかしい、ここ下り坂なのに、車が重い。おかしい」

ドライバーにしかわからない、車が重くなる変化。普通は下り坂なら重いと感じることはないのに、確実にさっきの登り坂より重い。

そういう伯父さんに、おかしいと思った祖母が後ろを振り返ってみると……。

大きく腕を広げた男が目を見開き、ガラスに張り付いているのです。

「ひーーーっ」

息を飲みました。あまりの恐怖に声が上げられません。視力の弱い祖母でもハッキリ見えたのです。とっさに助手席の母に後ろからしがみつき、うずくまりました。

「お母さんどうしたの?」

それにビックリした母が祖母に言いますが、祖母はブルブル震えたまま、

「うーうーうー」

と声にならない声を上げるだけなのです。

そうして必死に道を進んで行きますが、いっこうに出口らしき所にたどりつけません。

それでも母は、

「絶対に車を止めちゃダメ。絶対にこのまま進んで、どんなに道が狭くても進むの」

と、伯父さんに言い続けました。

これで車を一瞬でも止めたら、絶対にダメだと母は思ったそうです。

とにかく一本道を走らせていると、予想もしない物が目に飛び込んできました。

それは墓地でした。

出口らしい道はどこにもなく、墓地だけが目の前に広がっているのです。

「どういうことだ。道なんてどこにもないじゃないか!!」

伯父さんは虚しい声を上げました。

必死に車を走らせ、この道から逃げられると思っていたのに、そこには行き止まりのお墓だけ。

「もうこうなったら、道じゃない道でも行ってやる。墓をなぎ倒してでも行ってやる!」

車内にいた全員が同じ気持ちでした。

このまま、そうやってでも行かない限り、さっき来た道を引き返すことになります。

答えはひとつでした。

どうにか車1台通れるお墓の間を通り、ようやく大きな道へと出られたのです。

気がつけば空は白んでいました。

******

この体験は祖母が遭った数々の心霊体験の中でも、もっとも恐ろしい出来事だったと聞いています。

もう、祖母も伯父も亡くなっていますが、母を合わせた3人が集まると必ずこの話になったそうです。

「あの時のあれはいったい何だったんだろうね」

「そういえば、あの時すれ違った車の人は、道を真っすぐ来たって言うけど、じゃああのお墓をくぐって来たのかね? おかしいよね」

「お母さん、あの時、後ろにへばりついてる男の人見たんでしょ? なんですぐに言わなかったのよ」

「だって、恐ろしくてとてもじゃないけど声が出なかったよ」

あの時、母が叫んで止めていなかったら2人は……。

すれ違った車はどこから来たのか……。

赤い大きな丸い灯りは……。

もしかすると、祖母が見た車にへばりつく男は、すれ違った男性ドライバーだったのかもしれません。

シェアする

フォローする