昭和30年代半ば、戦後の高度経済成長期における道路整備が各地で進んでいましたが、特に神奈川県は東京オリンピックの影響を受け、都市造りが急ピッチで進められていました。そんな時代背景から、小田急線沿いの各駅もにぎやかになりつつあった頃のお話です。
だんだん景気が良くなってきたことがきっかけで、私の親戚のFさん夫婦も相模原の駅前でヤキトリ屋さんをオープンさせたのです。
駅前ということもあって、お店はすぐに軌道に乗り、毎日のように来てくれるお得意さんもできました。
その常連さんのひとりがある日、いつものビール片手に、
「おやじ、こんな噂聞いたことあるかね?」
と、ほろ酔いで話し始めたのです。
「あのさぁ、新しく山を切り崩して作った道路あるだろ。座間の。あそこの道路に女子高生の幽霊が出るんだってよ。夜になるとアスファルトが血で赤く染まるんだとさぁ」
お客さんが言うにはこうです。
相模原と座間を結ぶ道路を新しく作っている最中に、そこを通りかかった女子高生が、道路工事作業員に乱暴された挙句に殺され、なんとその死体をそのままアスファルトに埋めてしまったというのです。
そして、夜な夜な女子高生の怨みで、その道路が真っ赤に染まるのだと。
「僕は見たことないけど、人づてに聞いた話だとそうなんだってよ。なんだか笑っちまうよなぁ」
と、お客さんの酒の肴程度の話に、
店主のFさんも、
「そんなことある訳ないだろー」
と2人で笑ったのです。
その後しばらく経って、Fさんは仕事で座間方面に来ていました。
「そういえば、新しく出来た道があるから、あっちの道を通ってみよう」
と、山を切り崩した新道に向かったのです。
新しく出来た道といえど、やはり山を切り崩しただけあって周りは山林に囲まれています。時間はすでに夜の11時を過ぎていて、あたりは真っ暗くなっていました。
道を走っていると、この前聞いた常連さんの話を思い出しました。
「あのお客さんが言ってた話は、ここらへんなのかなぁ……? バカバカしい」
そんなことを考えていると、急に尿意を催し、トイレに行きたくなったのです。
けれど、公衆トイレや、ましてや今と違ってコンビニもありません。
「しょうがない」
そう思ってFさんはその場で車を停めて林に少し入り、木の下に行きました。
そして用を足そうと下を向いたその時です。
足が見えたのです。
人の足が。
Fさんがビックリして顔を上げると。
若い女性、セーラー服を着た女性が、目の前に立っていたのです。
白く浮かび上がるようにして立つ女性の顔はうつむきとても悲しげな表情をしているのです。
そして、突然その表情は一変しFさんをジロリと睨み付け「お前か!!」と叫んだのです。
「うわーーーーーー!!」
Fさんは叫び声を上げて一目散に逃げました。途中で転びそうになりながらも、必死で車に逃げ込み、何とか家へとたどり着きました。
その翌日。
あの常連さんがお店にやって来たので、Fさんは言いました。
「昨日見たよ。見ちゃったんだよ」
「何をだい?」
「お客さんが言ってたでしょ!
あそこの道路に女子高生の幽霊が出るって」
「えっ!? 本当に見たのかい!? おやじが見たってのか!!」
とお客さんは興奮しながら、
「おやじ! その話、詳しく聞かせてくれよ!!」
と、といつも以上にヤキトリを注文してくれたそうです。
そんなことがあってから、Fさんの体験談は人から、人へと話が広がり、「女子高生の幽霊を見た店主がいる店」としてお店はさらに繁盛したそうです……。