サマータイム首吊りの家(神奈川県箱根町) | コワイハナシ47

サマータイム首吊りの家(神奈川県箱根町)

19歳の夏、母は祖母と夏の間のサマータイムだけ箱根町の強羅にある、祖母の友人が所有する家を避暑をかねて借りることになったのです。

強羅にはもともと祖母の友人が数人いて、前から遊びにおいでよと誘われていたのですが、友人が、

「ちょうど知り合いの人がもうひとつ家を持っていて今空き家になっているからどう?」

と教えてくれたのです。

そして、その所有している方も、

「普段この家は誰にも貸さないけど、あなたたち親子だったら貸すわ」

と言ってくださったので、ますます「それじゃ折角だから行ってみよう」となったのです。

それに、母は生まれつき心臓が悪く体が丈夫ではなかったので、祖母も少しでも空気のいい所で濁したいという考えもあってのことでした。

鎌倉から箱根ですし、夏の間だけなので身の回りで使う細々とした物だけを業者の方に頼んで持って来てもらい、お世話になる家に着きました。

家は、平屋の木造の古い和風な建物で、親子2人で別荘にするにはちょうどいい広さの2LDKほどの造りです。

母も祖母もこの家を見るのは今日が初めてです。

借りた玄関の鍵を開け、初めてガラス戸をガラーッと開けます。

そして、目の前に飛び込んできた風景に言葉を失いました。

入ってすぐの壁に無数のお札が貼られているのです……。

「うわーぁ、これは凄いですねぇ……」

荷物を持って来てくれた業者の方も、それをしみじみ見回しながら言っています。

これは大変なことになった……。

そう思った母ですが、もう後戻りは出来ません。お金も払ってありますし、身の回りの物もこの家に入ってしまっています。

母はここで覚悟を決めたそうです。

そして、短い引っ越し作業を終えて、祖母の友人が近所にいますから、祖母は引っ越しの挨拶に回ってくると言って、出かけて行きました。

ひとりになった母は奥の部屋にボンボンベッドを出し、趣味が読書だったので忘れもしない、三浦綾子の『塩狩峠』を読んでいました。

時は夕暮れ。

ガラーッと玄関のドアが開く音がしたので、

「お母さんおかえりー」

と、本を読みながら声をかけたのです。

ですが、一向に祖母の帰って来た気配がしないのです。不思議に思った母は何度も何度も、

「お母さん? お母さん?」

と声をかけましたが、祖母はまだ帰って来ていないようです……。

(これはやっぱり……)

と思った母でしたが、もっと恐ろしい出来事がこの日の夜から続くことになったのです……。

祖母と母は、畳の部屋に布団を出して2つ並べて寝ていました。この家での初めての夜で、馴れない環境ではあったのですが、移動の疲れもあり、2人はすぐに寝てしまいました。

ズーッズーッズーッ

母は何かを引きずっているような音に目を覚ましました。時間を見ると夜中の2時ちょうど。

(この音はなんだろう……何かの足音みたい)

ズーッズーッズーッ

そして、ふと横を見てみると、女の人の歩く足だけがスッスッと見えたのです。

(ついに出たかぁ……)

昼間、母が考えていたことがついに現実となったのです。その音は朝まで鳴り止まず、とうとう夜が明けてしまいました。

そして次の日の夜中。

ちょうど2時頃からあの現象が始まります。

次の日も午前2時から。

そしてそのまた次の日も午前2時から……。

と、毎晩同じ現象が続くのです……。

数日後のある日、母は祖母がうつらうつらしているのに気がつきました。どこか遠くを見つめるような目には力が入っていません。

連日続くあの現象に祖母はまったく眠れなかったようなのです。

母はというと、初めはまったく眠れなかったものの、最初から覚悟を決めていたこともあり、ましてや、幼い時から怪奇現象には沢山遭ってきているので、この時にはもう夜は眠れるくらいになっていました。

「あこちゃん……私眠れないよ。あの音がうるさくて……どうにかなっちゃいそうよ」

そう言う祖母は日に日に衰弱していきます。

そんなことが続いたある晩のこと。

「あこちゃん。今日はここの下で寝ましょうよ」

そう言っていつも布団を敷く畳の上ではなく、部屋と部屋のちょうど真ん中の鴨居の下に枕がくるように祖母が布団を置きました。

「お母さんなに言ってるの?」

突然そんなおかしな行動をしはじめた祖母に、母は信じられないとばかりに言いました。

「いいじゃない。枕の場所を変えてみれば眠れるかもしれないし」

と言う祖母を母はおかしいと思ったので、

「絶対にダメ」

と言って、渋る祖母をなんとか説得して、いつもの場所で寝たのです。

けれど、その日も決まって2時頃になったらまたあの音が聞こえてくるのでした。

ズーッズズーーッズズズーーーッ

これ以上耐えられないと思った祖母は、夏が終わるのを待たずして引っ越しを決めたのです。

引っ越し当日、見送りに来た祖母の友人の何人かのうち、ひとりが母に近づいてきました。

「今日で居なくなっちゃうなんて悲しいわぁ。あのさぁ、何でもなかったぁ?」

「えっ!? どういうことですか?」

突然の質問に母はこう聞き返しました。

「あのねぇ、実はさぁ。この家で女の人の首吊りがあったのよ。鴨居に縄かけてね。だから誰にも貸してなかったみたいなの。この辺じゃみんな知ってたのよ……。何もなかったぁ?」

という言葉に母は、

「いいえ」

と一言だけ首を振り答えたのです。

そう答えるしかありませんでした。

自分の母の友人に、滅多なことは言えないと思ったのでしょう。

こうして、祖母と母はほんの短いサマータイムを過ごした家を後にしたのです。

後からわかったことですが、祖母の友人が「あなたたち親子だったから貸す」と言ったのは、祖母と母が霊感が強いのを人づてに聞いて、

「あなたたち親子だったらどうにかしてくれる」

という意味でわざとこの家に住むように誘ったのだそうです。

この家は2人が出て行った後にすぐ取り壊され、現在はもうありません。

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