「おねえちゃんおねえちゃん」
と言って母のことを慕っている初美ちゃんは、母にとって妹のような存在です。
母も初美ちゃんのことを大変可愛がっていて、私も初美ちゃんによく可愛がってもらいました。
初美ちゃんは元から霊感が強く色々な体験をしているのですが、中でもこんなことがありました。
初美ちゃんはシンガーソングライターのOさんの大ファンでした。
毎日Oさんの曲を聞いて元気をもらっていたのです。
初美ちゃん自身、10代の時、つらい時期が続いてOさんの音楽性に共感して、自分の気持ちを代弁してくれているようで、Oさんと自分を重ね合わせていたとも言っていました。
しかし、ある時突然に、Oさんが亡くなってしまったのです。
Oさんの死は世の中に衝撃を与え、沢山の人が悲しみに暮れましたが、初美ちゃんもその中のひとりでした。
「なんで死んじゃったの……」
初美ちゃんは泣きながらOさんの曲を聞き、毎日毎日悲しんでいました。
でも、Oさんの曲が大好きなので亡くなっても毎日欠かさず曲を聞いていました。
そんな毎日を送っているうちに、ある感情が湧き上がってくるのです。
「私も死にたい……」
あんなに毎日Oさんの曲で勇気づけられ、元気をもらっていたのに……。
憧れの人が亡くなると悲しみで、
「私も……」
という考えが浮かぶのはよくあることかと思いますが、初美ちゃんがそんな思いを抱えて毎晩曲を聞いていると、曲と一緒に、
「一緒に行こうよ……こっちにおいで……」
とどこからともなく声が聞こえてくるようになったそうです。
初美ちゃんはひとり暮らしをしていて、毎晩ひとり静かに曲を聞いていたので、そんな声が聞こえてくるはずがありません。
これはヤバイ……マズイ……。
本当に死にたくなってくる……。
そう恐怖を感じた初美ちゃんは、意を決して大好きなOさんのCDを捨てることにしました。
ごみ収集の日。
初美ちゃんは、
ゴミ収集場の前でひとり立ち尽くしていました。
なかなか捨てる決心がつかないのです。
そりゃそうです。
何度も自分を救ってくれた曲たちです。
私も、自分を勇気づけてくれた好きなアーティストさんの曲があるので、初美ちゃんの気持ちはよくわかります。
私も思い出のCDは大事にしてあります。
けれど、あんな声が頭の中に響いてくると、とてもじゃないけど普通ではいられません。
初美ちゃんは心を決めてCDを収集場所に置いて、振り返らずに早歩きでその場を後にしました。
少し後悔もありましたが、家に着いてほっとしました……。
が、次の瞬間、自分の目を疑いました。
さっき捨てたはずのOさんのCDが目の前にあったのです。
頭が真っ白になりました。
だって、ついさっき意を決して捨てたはずなのに……。
「なんで……」
訳がわかりません。
もう、恐怖と色んな感情が入り混じっていました。
呆然とするしかないのです。
次の週のゴミの日にまたCDをゴミ捨て場に持って行きましたが、CDはいつの間にか戻ってきています。
それを、もう一回繰り返しましたが、結果はまた同じ。
その出来事を職場のみんなに言っても、
「寝ぼけてたんじゃないの?」
とか、
「酔っ払ってたんじゃない?」
と言われて信じてもらえませんでした。
その後、そのCDはいつの間にか無くなっていたそうです。
CDがひとりでに、さ迷っているとでもいうのでしょうか?
そうだとしたら、貴方の所にも現れるかもしれません……。