或るポメラニアン(神奈川県横浜市) | コワイハナシ47

或るポメラニアン(神奈川県横浜市)

お次に犬にまつわる話をもうひとつご紹介します。

昭和50年代頃、うちで数年前までお手伝いさんをやっていたはつ子さんから、久しぶりに電話がかかってきたのです。

「久しぶりです。今横浜でひとり暮らしをしてて、最近犬を飼い始めたんですよ。これがすっごくかわいくて」

湯河原からJR根岸線沿線に引っ越したはつ子さんは横浜のオシャレな雰囲気に憧れていたので新生活に大変満足していました。

はつ子さんは横浜の観光の代表とも言える横浜中華街で働き始めたのです。

「あら、そうなの。はつ子さんワンちゃん好きだったもんね。仔犬なの?」

電話に出た母は、久しぶりに聞くはつ子さんの声に元気でやっていると感じ、嬉しく思ったそうです。

「それが違うのよ。大人の犬なの。でも仔犬みたいに可愛いポメラニアンなの。こんど遊びに来てね」

そんな少しの会話でこの日は電話を切ったのですが、はつ子さんが言うには、ひとり暮らしを始めたらやっぱり寂しくなり、ペットショップに行っては犬を探していたところ、ペットショップ兼ブリーダーのお宅に行った時に、玄関で遊んでいたこのポメラニアンに一目惚れをしたそうです。はつ子さんは是非この子を飼いたいと申し出たのですが、

「実はこの子は売りに出してないのよ」

と言われてしまいました。

それでもショップの方を説得してようやくその子を手に入れました。

母とはつ子さんは付き合いが長く、母が20歳ではつ子さんが8つ上の28歳で2人とも20代と年齢も近いのです。

そして、犬好きなことも似ていて、母も犬を飼っていたので、母の犬をよく可愛がってくれたのです。

そんなはつ子さんがひとり暮らしをして犬を飼うというのは当然のことで、母もいいワンちゃんと出会えてよかったなぁと思っていたのですが、しばらくしてまたはつ子さんから電話がかかってきました。

ワンちゃんを飼い始めたばかりなので、飼っているワンちゃんの自慢話のようなものをしたくなるのは当然だろうと母が話を聞いていると、こんなことを言い始めたのです。

「なんだか最近仕事から帰ってくると、置いておいたはずの物が違う所に置いてあったり、置いてないはずの物が出してあったり、閉めたはずの窓が少しだけ、5センチくらい開いていたり、何だかおかしいのよね……。

私が居ない間に誰か入ってきてるのかしら……。

でも、最近疲れてるから……。

私がドジだから、ドジがヒドくなってるだけなのかなぁ……そういえばこんなことが始まったのは、この子が来てからなのよねぇ……」

と、不思議な話をしたのです。

そんなはつ子さんに母は、

「あんまり気にしちゃダメだよ。仕事もあるだろうけど、忙しかったら休みなよ? 体を大事にして」

と励ましたのです。

そして、1週間くらいした時、またはつ子さんから電話がかかってきました。

「どうしたぁ? 元気? あれから大丈夫?」

と、母もはつ子さんのことを気にかけていました。

そうしたら

「あのね……実は……聞いてくれる……?」

と、口調がなんだか重いのです。普段は非常に明るく、しゃべり方も軽快な人なのに、

「どうしたの? 何かあったの? 聞くから」

母ははつ子さんの身に大変なことが起きていると悟ったのです。

「あのね、仕事から疲れて帰って来てすぐに寝ちゃうんだけど、ある日、目が覚めると、うちのワンちゃんが、

『クーン……クーン……』

って鳴いてるのね。

どうしたんだろうと思って聞いていると、鳴き声と一緒にだんだん女の人のすすり泣く声が聞こえてくるのよ……。

〝ヒクッ……ヒクッ……〟って……

私それから眠れなくて……

どうしよう……」

と、そんな話を打ち明けたのです。

はつ子さんとは長い付き合いでしたので、当然母の霊能力のことも知っています。

そして、その話を聞いた母が霊視してみると、確かに女の人が座りながら顔を手で覆って泣いている姿が見えたのです。

それと同時に男性の姿、その姿は上半身裸で背中に入れ墨が見えるのだそうです。

「これはヤバイよ。このままじゃダメだからとりあえず、盛り塩とお水を家の中のどこでもいいからお供えするように」

とアドバイスして様子を見ることにしたのです。

それから、1週間、2週間と経って、なんの連絡もないのであのお塩とお水が効いたんだなぁと思って安心していました。

けれど、3週間が過ぎたある夜に、突然電話のベルが鳴り響いたのです。

「はい、こんな夜中にどうしたのよ!?」

「みみみみみてーーー!! 見てよーーー!!」

「なに? なに? 電話だから見れないよ。とりあえず落ち着きなさいよ」

と、突然かけてきた電話口でパニックになっているはつ子さんを母が落ち着かせます。

けれど、はつ子さんはどうも落ち着くことができずに、叫ぶばかりなのです。

「見てー! 見てー!」

そう叫び続けることしか出来ないはつ子さんを、なんとか

「大丈夫だから、大丈夫だから」

となだめてようやくその状況がわかってきました。

「あのね、今仕事から帰って来たら、置いてあったお塩の中にお水が全部入れられているの」

と説明してくれたのです。

しかも、お水に使っていたガラスの蓋がとんでもなく遠い所に転がっていたのです。

はつ子さんは、3週間前に母から言われたことを毎日欠かさずやっていて、ずっと怪奇現象が収まっていたと言うのですが、その日は仕事が遅くなって12時すぎに帰宅して、見てみたら、こんな状況になっていたのです。

いよいよ危ないと思った母ははつ子さんに言います。

「はつ子さん。このままじゃあなたも危ないよ。女の人の霊はこのワンちゃんに憑いているんだから、このワンちゃんを手放しなさい。このワンちゃんをこのまま飼っていたら絶対にダメよ」と。

けれど、はつ子さんはせっかく一目惚れして飼った可愛いワンちゃんだし、どこに連れて行ってもみんなに可愛いねと言われて嬉しいから、絶対に手放したくないと言うのです。

そんなはつ子さんに母は、

「このままじゃ、はつ子さん死んじゃうよ! だから絶対に手放しなさい。

今ここでこの子を手放すと心に決めて心の中で、

〝この子を手放します〟

〝この子を手放します〟

と宣言して祈りなさい」

と、はつ子さんを思ってそうキツく諭したのです。

その言葉を聞いて、いよいよ尋常ではない状況だと気付いたはつ子さんは、心に決めたのです。この子を手放すと。

「夜が明けたら朝一番でこの子を買ったお店に持ってくんだよ。ただ突然返しに行ってもなんだと思われるから、この際何があったかっていうのを正直に話してみなさいよ」

と母は最後に言ったのでした。

こうして、電話を切ったはつ子さんは、母の言った通り朝イチで、買ったペットショップへワンちゃんを抱いて行き、正直に一からなにが起こったのか包み隠さずに話したのです。

この話を聞いたショップの人はただ、

「そんなことがあったの……」

と呆然とするばかりでしたが、しばらくすると「実はね……」と口を開いたのです。

「前にこの子を飼っていた飼い主のことなんだけど、まだ若い女の人でね。

それでどうも悪い男と付き合ってたみたいで、その男が原因で自殺しちゃったのよ。

だから、売ったこっちが責任持って、この子を引き取ったのよ。凄く可愛がってくれてたみたいなんだけどね……だから売りものじゃなかったのよ」

ワンちゃんはまたこのペットショップで暮らし、それからはつ子さんの身にも怪奇現象や女の人のすすり泣く声ももうすることはなくなったのです。

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